第6話 デート
朝6時に目が覚める。休日にはアラームをつけないが、早起きしてしまった。
快適な目覚めであったので、二度寝はしなかった。
俺はスマホを確認する。
よし、メールが今日もたくさん来ている。
一昨日くらいから削除もしていない。なんか慣れてしまった。
俺は部屋を出る。妹はまだ寝てるみたいだ。
朝、家が静かなのは非日常的だった。家の中に差す朝日が綺麗だし、もしかしたら伝説の剣がリビングに刺さってるかも。
そんなことはない。トイレに行く。
用を済ませ、部屋に戻る途中。
なんか妹にいたずらしたくなってきた。
よく考えたら妹より早く起きるなんてとても久しぶりだ。このチャンス、活かすしかない。
早速妹の部屋の扉をそっと開ける。
「また、そんなことして、、、だめだよおにいちゃん、、、」
え、もうバレた!?
しかし妹はそのまま寝息を立てている。
なんだただの寝言か。
しかし俺は夢の中でもやらかしてるのか。
だめな兄貴だ。なんか萎えたので部屋を出た。
「お兄ちゃん、おはよー!ご飯できたよ。」
「おう、おはよう。準備ありがとな。」
今日も妹は元気だ。
いつものように二人で飯を食って、俺は出掛ける準備をする。
「あれ、お兄ちゃんお出かけ?珍しいね。」
ぼっち俺は休日に家を出ることは無い。
「聞いて驚くなよ、妹よ。今日お兄ちゃんはデートなんだっ!!」
どうだ。すごいだろ。
「ふーん。楽しんでね。」
あれ?案外ドライだ。兄がデート行こうがあんまり関係ないって感じか。
「遅くなりそうになったら連絡するから。」
晩ご飯の準備とかあるからちゃんと連絡しないと迷惑だ。
「わかった。いってらっしゃい。」
「おう、いってくるぜ!」
俺は意気揚々と家を出る。
駅前に午前10時。
十分前に着くと先輩はもういた。
「早いですね、先輩、待ちました?」
先輩と向かい合う。
「別にそんなに待ってないわ。」
嘘っぽい。楽しみにしてたのバレちゃう、恥ずかしい!みたいなニュアンスがある。
「先輩、服似合ってますよ!」
先輩の白のワンピースが五月の心地よい風に揺れる。少し夏の香りがするみたいだった。
「そ、そうかしら、ならよかったわ。」
全くクールな雰囲気はなかった。最初からないか。別に。
「今日、何します?」
駅前のショッピングセンターに向かって歩きながら今日の予定を立てる。
「そうね、映画でもみましょうか。」
映画は普段見ないが、好きだ。
「いいですね!今何やってましたっけ。」
「私みたいのがあるの。それでいいかしら?」
「もちろんです。それ見ましょう。」
先輩がみたい映画ってなんだろう。
「おい、ポチ!こぼすなっていってるだろ!!」
「くぅん」
水を飲む子犬を叱る少年。そして横の先輩はそれをみて涙を流している。
先輩は大きな瞳からあふれ、スクリーンの光を反射して輝く滴を拭うこともなくただ呆然とみている。
いやこれまだ始まったばかりなんだけど。開幕のシーンなんだけど。
なに、この作品ループモノでこのシーン後に響いてくんの?
先輩の感受性が謎だった。
「なかなかの名作だったわね。」
ノビをしながら先輩がいう。
「あはは、その通りですね。もう一回見たいくらいです。」
棒読みで俺は言う。あの後、普通に少年と犬が仲良くなって、一時間ずっと遊んで終わっただけだった。
逆に俺の気がついてない伏線とか、メタファーとかあるのかなと気になって、もう一回みたいくらいだった。
「お昼にしませんか?」
もう一時前だ。お腹すいた。
「そうね、そうしましょう。」
ファストフード店でハンバーガーを食べる。
「おいしいですね。」
「そうね。」
特に爆笑トークとかはないが、どこか落ち着く、楽しい時間を過ごす。
次はウィンドショッピングをすることになった。
「先輩はなんか見たいものありますか?」
「そうね、、、」
あれ、あそこで話してるのって優じゃない?女の子と二人っきりで、、、
とても焦っている自分に気がつく。でも今は友達と買い物に来ているのだ。とりあえずここは一旦、、、
ゆうくんが女の子と二人きりでいる。血の気が引く。もうツンケンしてる場合じゃない。
わたし、かわらなきゃ、、、
「いや〜いろいろみましたね!」
先輩の見たいものはどんどん増えていった。
ショッピングセンターでは歩いているだけで欲望が増加していく。恐ろしいっ!
結局なにも買わなかったが。
外に出ると、夕日が綺麗だった。
先輩は急に止まってこういった。
「そ、その。つ、付き合ってくれてありがとう。」
恥ずかしそうに目を逸らしている。白いワンピースと透き通るような肌が、綺麗にオレンジ色に染まっている。ドキッとした。
「い、いえ、僕も楽しかったですし、、」
俺もしおらしくなってしまう。
これじゃあまるで付き合いたてのカップルだ。
「じゃ、わたしは帰るわ。また週明け会いましょう。」
「はい、さよなら。」
恥ずかしくて言葉数が少ない。お互いに。
俺は先輩が歩く後ろ姿を眺めることしかできなかった。
曲がり角で先輩はチラッと振り返り、まだ俺が見送ってることを確認して、嬉しそうに手を振ってきた。
手を振り返す。
今日はなんだかドキドキさせられてばかりだ。
いやでも、なんか大事なこと忘れてる気がする。
あっ。
「ストーカー対策全然してねぇ。」
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