第4話 きっかけ

「下駄箱に入ってたんですよ、髪が。だから開けるのに迷ったというか。」


俺はさっきの行動を弁明する。


「・・・」


先輩はずっと黙っている。俺のされてきたことが想像以上で驚いているのだろうか。


「で、でもさっきは何も入っていなかったわ。」


「なんか、タイミングは謎なんですけど、いつも中に入れられたものが、ちゃんと回収されてるんですよね。」


「つまり、今回はそれが早かったということしから、ね。」


先輩はさも「名推理だろう」と言わんばかりにドヤ顔をしている。調子が戻ってきたようだ。


「そうなんです、よくわかりましたね!」


いつものようにおだてる。


「それくらい分かるわ。で、それを一旦誤魔化したのは、話しづらい内容だったからということでしょうね。」


「間違いないです!」


「そしてそれを私に相談したということは、今週末に私とデートすることで犯人をあぶり出そうという作戦を思いついたからなのね。」


「その通りです!」


ん?それは一体、どういう事だ。勢いで肯定してしまったが。


「まぁ、あなたに頼まれたのならしょうがないわ。相当困ってるみたいだし。」


俺が頼んだことになってるし。


でもまぁ、先輩とデートするの面白そうだからいっか。


「じゃあ土曜日に駅前10時集合でいいですかね?」


「わかったわ、よろしくね。」


「はい、こちらこそよろしくお願いします!」


話にひと段落ついたので、下校を再開する。


「ストーカー犯、具体的にはどうやってあぶり出すんですか?」


「普通にデートしていたら出てくるはずだわ。」


先輩のことなので期待していなかったが、やはり作戦が抽象的だ。ただデートをしてストーカー犯を刺激するだけのような気がするな。


そうなると先輩に被害が出ることもあり得るわけで。


しかし今更断ろうにも、先ほどからやけに機嫌が良い。


五分前には凛々しくあった雰囲気とは打って変わって、そこには庇護欲をかき立てるような少しあどけない笑顔が。


黒く長い髪はこの時、妖艶さと幼さを携えた倒錯的なものになる。


少し照れ臭くなって話しかけられなかった。


俺のチャリが幸せな沈黙に合わせてカタカタと鳴る。


気がつけば、先輩と分かれ道でお別れをしてチャリをこいでいた。


静かな街並みで夕陽の手前くらいの日差しが、俺の思考を気持ちよく鈍感にしていた。





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