命懸けの入学試験【1】

そこは地下に空いた大空洞。街外れにある名もない古代遺跡。壁には一面の未だ解読されていない古代文字。すべての音が岩に吸収され反響しない。その天井は、薄暗く見えにくい。地下の世界しか知らないのであれば、この世に存在するすべてのものが、この空間におさまってしまうのではないかと錯覚する。

その空間の根底に位置する人々の群れ。十五歳になった僕はその中にいた。


僕は割と人混みが苦手だ。二〜三百人くらいはいると思う。こんなに人が多いところは初めてで、多少吐き気がする。空間が広いせいもあって今は何とかなっているが、限度があるので、端っこに移動することにした。


ここを訪れたのには、理由がある。

遡ること一ヶ月ほど前。家の郵便受けに一通の手紙が入っていた。外側には何も書いていない白い封筒。真っ赤な封蝋には見たことも無い紋章が刻まれていた。不審に思って中を見てみた。


「おめでとう! 君は選ばれし者だ! 詳しくは後で説明するからとりあえず、一ヶ月後、町外れの古代遺跡まで来てくれ!」


うん、怪しい。怪しすぎる。

そう思ったのになぜだか非常に興味をそそられた。怪しいと思ったら、逆に興味が湧いてくるものだろう。選ばれし者ってカッコイイもん。大体こういった話には何か裏があると思う。悪い話ならそれはそれでなんとかしてやろうと思った。自分の力を試すチャンスだ。僕の他にも人がいることには驚いた。男女問わず同年代くらいだろうか。僕は年齢の割には幼く見えるので、


結論。来なけりゃよかった。

すごい気持ち悪い。

お、端までもうすぐだ。今すぐにでも座り込んじゃいそう。あー、気持ち悪い。


その時、僕の視界の隅に入っただけのソレの存在感と言ったら、言葉では表現し尽くせない。あれだけ目を引く存在なのに誰も見向きもしない。存在感と共に影のうすさのようなものも兼ね備えている。ソレなんて呼ぶのは失礼極まりないだろう。あまりに可憐だ。

僕が目にしたのは、美少女。目から魂も奪われそうで、心臓が止まったみたいだ。艶々な黒い髪に大きく真っ黒な瞳。特徴はそれくらいだが、整った顔立ち。一般的な見た目なはずなのに、僕は目が離せなかった。


……恋…とか…?


おっと危ない。何だかめちゃくちゃいい気分になったけど、休憩に来ただけだった。何を考えているんだ、僕。もしここで声をかけてしまったら、ただのナンパ師だ。自制しろ。


「あの〜ちょっとすみません。これってどういう集まりなのか分かります??」

「ひぇっ!?」


ん? んんん?? やばっ、心の声漏れてたかも!?

と思いつつ少女の方を見ると、僕ではない少しチャラめの男性がいた。さっきの言葉もあのチャラ男が言ったのだろう。

ふぅ〜、良かった。

心の声漏れてた訳じゃないみたいだ。

…さっきの「ひぇ!?」って可愛かったな、もう一回聞きたいな。


「わ、わかりまひぇんっ!」

「そうなんだ、誰も分からないんだよね。これ以上、他をあたるのも面倒だしここにいてもいいかな?」


そうこうしてるうちに、少女とチャラ男の会話は続く。少女はかなり戸惑っているが、チャラ男はずっとニコニコしているだけだ。


さっき噛んじゃったのも可愛かったなぁ。

…あ…やべ。


二人の会話を不審に思った僕は周りを見渡すと、少し離れたところから数人のチャラ男達が眺めているのが目に入った。

……ナンパか?

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