紅と黒

ゆん

第1話 日常

–カズキ…私の可愛いカズキ−


…頭がクラクラする、ここはどこだ

姫様…どこですか、姫様…


–この【力】で必ず…終わらせて…–


…なにも見えない、なにも感じない…

姫様…どこですか…


–貴方の手で…【私】を…–


姫様…!


--------


「…またこの夢か」


火神一輝(カガミ カズキ)は連日悪夢に魘されていた

見たこともない景色、黒髪が綺麗な女性、血の匂い、喉の渇き

この夢は一体なんなのか

ただの夢?それとも、なにか悪いものでも取り憑いているのか


「…とりあえず寝るか。」


現在夜中の3時過ぎ

明日も学校を控えているカズキは枕元にあるペットボトルの水を飲み干し、再度寝ることにした


--------


「うおぉぉぉ!!」


竹刀が相手の面に当たり、打音が体育館に響き渡る


「一本!そこまでっ!勝者、火神一輝!」


「すげぇ!またあいつの勝ちだ!」

「なんで素人なのに剣道部に勝ってんだよ!」

「俺最後の一本早すぎて全然見えなかった!」


「くそっ!」


カズキの相手は床を殴り、悔しがっている


「まさか竹刀の構えすら知らない奴に負けるとは…!」


カズキが通う高校の剣道部は強くて有名だ

毎日毎日厳しい練習をして、何度も大会で優勝しているのに、素人に3回も負ければ悔しいのも仕方がない


「ごめんな、でも約束は約束だ。2度と俺の友達に嫌がらせしたり、パシリさせたりするなよ?」


カズキは借りた防具を脱ぎ、体育館を出ると

入り口の前で涙目になりながらカズキを見つめる男子生徒がいた


「金子?」


「カズキ君!ありがとう!本当にありがとう!なんてお礼をすればいいか…。」


「お礼なんていいって、友達なんだし、助けて当然だろ?」


「うぅ…カズキ君…ありがとう…。」


「おいおい男がこんなことで泣くなよ…。」


この金子という男子生徒、カズキのクラスメイトである

剣道部に所属しているが気弱な性格のために剣道部の先輩からいじめを受けていた

昨日先輩からパシリとして買い物に行かされている所をカズキが見ていたことから

いじめを辞めさせるために剣道の試合を申し込み、見事勝利したのだ


「それじゃあ俺はもう行くわ、またなんかあったら言えよ?」


「カズキ君、ありがとう!でも僕も強くなるよ、カズキ君みたいに!」


「おう、それじゃあな!」


カズキは去りながら考える

確かに喧嘩では負けたことはない、運動もできる方だと思う

でもそれが強いということなのか

本当の意味で強いとはどういうことなのか

誰かに教えてもらったことがあるような気がしている


「お~い、カズキ~!」


考え事をしてると、後ろから声が聞こえる

カズキと同じクラスの男子生徒がこちらに向かって走ってくる


「おう、恭平か。もしかして…見てたのか?」


「当たり前だろ!全国常連のうちの剣道部と素人の勝負なんて普通見れないからな!いや~、流石カズキ君、見事な一本でしたね~!」


「…なんでへらへらしてんだよ。」


「そりゃあ、あんだけ女子にキャーキャー言われたら気持ち良いだろうなと思ってな!」


「なんだそりゃ。そんなに女子いたか?」


「出たよ、女子に興味ありませんってか?この運動神経抜群のモテモテ男!略して運動神経抜群のモテ男め!」


「モテモテ男以外なんも略せてないだろ。」


「部活にも入ってないのに、普段から事ある毎に運動部の助っ人に行っては大活躍!今回はただのクラスメイトの為に、わざわざ強い剣道部の主将と試合して勝利…、カッコ良過ぎだろ!知ってるか?お前のファンクラブまであんだぞ!うらやましいぞコノ野郎!」


清水恭平(しみず きょうへい)

彼はカズキの友人であり、小学生の頃から一緒に行動している幼馴染でもある

運動神経は悪いが頭が良く、小中高と学年1位を取り続けている


「うっせ、俺はいじめとかが嫌いだし、金子は俺の友達だから許せなかったんだよ。お前はお前で成績学年トップの秀才なんだからモテんだろ。」


「確かに俺は学年どころかこの学校、いや日本で一番頭が良い…だがお前はなんもわかってない…頭が良くてもモテないんだよ…!この世界では運動できる奴がカースト上位に君臨できる…頭脳なんて必要ないんだ!モテこそが正義!モテこそが世界を救うんだ!」


彼が日本で一番頭が良いかはわからないが、この学校で一番頭が良いというのは事実であろう

彼はIQ200の天才だからだ

ただ、思考が残念なのだ


「頭だけは良いくせになんで毎度馬鹿なことばっかり言うんだか…。」


カズキは恭平の暴走を止め、早足に家に帰る

部屋につくとベッドに倒れこんだ

昨日も良く眠れていない

まだ夕方だというのにそのまま眠ってしまった

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