第18話 出会い

『魔女を殺しなさい』

 見知らぬ少女が告げたその言葉がサナの脳裏から離れなかった。

 それは言葉通りの意味なのだろうか。魔女であるサナに同じ魔女を殺せというのか。

 あの少女は何者なのか。

 そして、何が目的なのか。

 そのことばかりが思考を支配していく。

 サナはそのことばかりを考えながら、果ての見えない不毛の砂漠に一歩足を踏み出して行った。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「‥‥‥あっ」

 サナに魔術を掛けた直後、『夢幻』の大魔女リルが、突然何かを思い出したような声をあげる。

「リル、どうしたの?」

「えっと‥‥‥」

 フェーニに問われたリルが困ったように苦笑。

「実は‥‥‥

 今、サナちゃんのいる「夢の世界」には先客がいるの」

「先客?」

「うん。はね‥‥‥」

 見当がつかず、当惑する魔女たちにリルがその先客の正体を告げた。

「「「えっ!?」」」

「はぁ!?」

 驚く魔女たちと、慌てるフェーニ。

 その反応を見ていたイヴが冷静に諭す《さとす》。

「フェーニ、落ち着いて。

 今、妾たちに出来ることは何もない。

 出来るのはただ信じることだけ。妾たちの末のの可能性を」

 原初の魔女は己の後継を信じ、ただ歩みを進める。

 その行く末に待つのが自らの終焉だとしても。

 その足を止めることはなかった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「‥‥‥貴女あなたは何者ですか?」

 突然、発音の良い青年の声がサナに問いかけてきた。

「え?」

 思考に浸り、周囲に警戒を向けていなかったサナはその声に瞬時に反応できない。

 その一瞬の隙。その間にサナの喉元には鋭い刃の切っ先が突き付けられていた。

 サナの目の前には、純白の外套を羽織い、剣を構える青年の姿があった。

「単刀直入に聞きます。貴女は魔女ですか?」

 その青年は剣の切っ先をサナに向けたまま、そう問う。

 その問いの返答をサナは少し迷う。

 それは、青年の纏う質のよさそうな純白の外套。それに僅かな見覚えがあったから。

 教会の魔女討伐者、『勇者』のものと酷似していたのだ。

 サナは以前、幾人かの勇者を屠っているが、この青年からはそれらの勇者たちとは比べものにならないほどの実力が感じられた。

 そもそも、いくら思考に浸っていたとは言え、千年呪の魔女たるサナに気付かれずにその喉元に刃を突きつけることが出来るのだ。

 その時点で相当な実力の持ち主であることははっきりしていた。

 だから、まず第一にサナは笑顔でこう言った。

「私が魔女かどうかの前に、その剣を下ろしてくれるかしら」

「あっ‥‥‥」

 切っ先を突きつけたままの状況にたった今、気づいたかのように青年が慌てて剣先を逸らし、剣身を鞘に納める。

「すまない‥‥‥」

「で? 私が魔女だとしたら、貴方はどうするの? 勇者さん」

 サナの発言に青年が動揺。

「何故、僕が勇者だと‥‥‥」

「私が勇者と出会ったことがあるから」

 淡白なサナの返答に青年がほんのわずかな苛立ちを込めて言い返す。

「悪いが、君は僕を馬鹿にしているのか?」

「えっ?」

 何故そうなる?

 サナは真実を語っているだけだ。

 実際に千年呪の魔女として勇者を殺した。

 青年に言っていないのはサナが魔女であり、勇者を殺した過去があるということだけだ。

 以前、始末した勇者と似た外套を羽織っている。それだけでサナが青年を勇者と見破ったのが嘘?

 紛れもない真実であるのに?

そこにはかすかな違和感があるのだ。

サナの認識と青年の認識が噛み合っていないような‥‥‥

「‥‥‥まさかっ!!」

突然、サナはひとつの可能性に気づいた。

貴方あなたが私の言葉を嘘だと思った理由は???」

凄まじい気迫で、サナが青年に問う。

その気迫に押されながらも青年が答え、それを聞きサナが「やっぱり‥‥‥」と呟く。


青年はこう言った。

「理由? 僕がだからだよ」

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