第17話 夢の中
魔女たちが覚悟を決めた最果ての地。
多くの魔女たちが、眠りにつく一人の少女を見つめていた。
「この子が後継者なの?」
『夢幻』の大魔女、リルの問いをイヴが頷き、肯定する。
「まあ、正確には後継者候補。だけどね」
その言葉を聞き、その場の魔女たちが眠り続けるサナを見つめる。
それらのまなざしには、限りない慈愛。
「リル、頼める?」
フェーニが一言、呟くように言い放つ。
その言葉にリルは微かな、ほんのわずかな躊躇い《ためらい》の後、頷いた。
リルが、サナの額にその手を当て、詠唱を始める。
「『私は『夢幻』。夢と幻、
夢は夢。幻は幻。決して現にあらず。
されど。夢が覚め、幻が消えようと、その夢幻は
記憶はひとつ。
その記憶の中にて、夢幻は永劫なり』」
辺りに仄かな光が漂い始める。
それは、神秘的な光景。大魔女の魔術とは思えないほどの美しさだった。
その仄かな光の欠片が詠唱の終わりに近づくにつれてサナに集まっていく。
そして、サナの額に当てた手の甲の上に大きな構成を成形していく。
詠唱が終わると同時、構成が鋭く光を放った。
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「ここは‥‥‥??」
気が付くとサナは、見覚えのない森の中で仰向けで天を見上げていた。
深い緑の葉からの木漏れ日が、サナを優しく照らしている。
「ふぁぁぁぁ」
思わず、気の抜けた声が出てしまう。
「‥‥‥私、何をしていたんだっけ?」
サナは、その呟きと共に己の記憶を辿り始める。
把握している中での最後の記憶は、かすれる視界の中、倒れた自分の身体から悪魔と思っていた「使徒」が這い出して行く光景。その悪夢のような光景の果てにサナの意識は暗転した。
サナは起き上がり、森の中を歩きだす。
この先、サナを待ち受ける試練を知る者はいない。
だが、例えどのような試練が待ち受けていようとサナは歩き続けるのだろう。
歩みを進めたその先に、真実がサナを待っているのだから。
一体、どれほどの間歩いたのだろうか。
サナの目の前には一人の少女がいた。
サナの肩程度の背しかなく、髪は赤みがかった茶髪。けれど、その瞳は長い時を経た老人のそれのように、この世を悟ったような輝きを帯びている。
「貴女が千年呪の魔女サナであってる?」
少女は唐突にそう問うた。
「え? ええ、そうだけど」
困惑しながらも、サナは答える。
そういえば、いつからだろうか。
『千年呪の魔女』の名に嫌悪感を覚えなくなったのは。
いつの間にか、その名で呼ばれることに慣れていた気がする。
そんなサナの思いも知らず、少女は一方的に告げる。
「真実が知りたい? 魔女とこの世界の本当の姿を知りたい?」
「‥‥‥知りたい」
考える前にサナの口は動いていた。
意図せず零れたその言葉を聞き、少女は嬉しそうに、それでも重々しい声で。
「なら、この世界の魔女を滅ぼしなさい。
魔女が全滅した時、真実の扉は開くでしょう」
そう言ったのだった。
瞬間、サナの視界が光に満ちる。
思わず目蓋を閉じて。
目を開いた時には、サナの前に少女の姿は既に無く。
サナは、果ての見えない砂漠にひとり立ち尽くしていた。
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