第14話 使徒 ②
「出てきなさい。女神の使徒」
フェーニのその言葉。
それは、意識のないサナの身体に向けられたものだった。
正確には‥‥‥
『流石に強奪の大魔女には、バレてしまったか』
そう低い声が、意識のないサナの身体から放たれた。
「何が『悪魔』よ。わたしたち魔女にそのようなものは必要ないんだから」
『クッククク‥‥‥
楽しみは取っておく
まあ、此処で貴様らには死んでもらおうか』
『使徒』は、フェーニの言葉を否定して、嗤う。
倒れたサナの身体の下から、漆黒の影がにじみ出てくる。影は広がり、その影から鋭利な爪の生えた黒い腕が突き出される。
「相変わらず、神の使徒というより悪魔のような見た目だな」
影より這い出た使徒をハーサがあっさりと評す。
その姿は、まさに異形。四肢は異常に長く、眼球は三つ。そして、口はない。
『き、貴様ッ‥‥‥! 我が肉体は女神さまに与えられし最高のもの。愚弄するなど決して許さぬぞ!』
激昂する「使徒」にフェーニは冷徹に語りかけた。それが孕むは魔女の冷徹。凍るような殺意。
「別に、貴様の外見などどうでもいい。
わたしの後輩であるサナに取り憑いていたこと。それは万死に値する!
己が
そうして、突き出された右手。
先程のサナとは比べ物にもならない程の魔力がその右手に集中する。
「『わたしは、貴様を羨む‥‥‥』」
その言葉と同時に魔力が渦を巻き、構成を形作る。
桁違いに膨大な魔力であるにもかかわらず、サナのような不安定さは欠片も感じられない完璧な構成。
「『その肉体を。その魂を。その意思を羨む』」
下手をしたら、世界を滅ぼせるのではないか。そう思わせるほどの魔力と構成であった。
『これが、大魔女の実力か‥‥‥』
その圧倒的な力の前に、絶望したように使徒が言葉を零す。
『だがッ!!』
それでも‥‥‥使徒の口元が弧を描く。
この致命的な状況であっても、笑みを浮かべて使徒は言い放つ。
『かの強奪の大魔女に、女神様に授けられし、この力がどこまで通じるのか。試してみるのも一興!!』
覚悟のこもったその言葉を、フェーニの詠唱が無情にも切り捨てる。
けれど。
「『羨む故に、奪って見せよう。
その‥‥‥』」
「お待ち下さい。フェーニ様っ!!」
その死の詠唱をハーサが遮った。
「なに?」
不機嫌ながらも、放たれたその問いにハーサが答える。
「あの使徒の相手。このハーサに務めさせてはいただけないでしょうか。
この私とて、あのお方の右腕と謳われた身。
必ずや、討ち果たして見せましょう。
それよりも、サナ殿が‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥はぁ。
分かったわよ。好きにして。わたしはサナを連れて帰るから。
あと、ハーサ。敬語はやめて。同期みたいなものでしょう? わたし達」
そう言って、フェーニは、ため息と共に構成を消し、サナを抱き抱える。
そのまま去っていくフェーニの背を眺めながら、ハーサが呟く。
「ああ、そうだね。フェーニ。
此処は、私に任せてくれ」
その声には、優しさがこもっていた。
『まさか強奪の魔女ではなく、あなたが残るとはな。ハーサ殿。
一体、どういう心変わりで?』
その問いにハーサはあっさりと答える。
「貴殿にも、女神の使徒としての誇りがあるのだろう? いままで、幾体かの使徒を葬ってきたが、貴殿はそれらとは違う。
力に酔うのではなく、力を律していた。
ならば、フェーニの魔術で粉も残らず消え去るより、正々堂々と殺し合うのが相応しいと感じただけだ」
『‥‥‥』
「どうせ、死ぬのなら。
同じ作られに殺された方がいいだろう。
では。『龍刀』のハーサ。参るッ!!!!!」
そうして、ハーサの愛刀と使徒の爪が引かれ合うように弧を描きながら、衝突した。
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