第12話 龍刀のハーサ
千年呪の魔女、サナに言った『死なせませんぞ』という言葉。
それは、本心からのものだ。
これまで、永きに渡って堕ちた魔女を狩ってきた。
魔女としての使命を忘れた裏切り者を。
力に溺れた者たちを。
この刀で断ち斬ってきた。
それは、我が主の
『ハーサ。千年呪の魔女を助けてきなさい』
強奪の魔女から告げられた主の命を思い出す。
そして、同じことを頼んできたフェーニ様の言葉も。
主の命と恩ある方の頼みだ。
断る訳にはいかない。
だから。
「我が名は、ハーサ。
魔女狩りが一人。
『龍刀』ハーサ・ハイクであるっ!
教会の魔女狩りの勇士たちよ、千年呪の魔女を狩りたければ、このハーサを超えて行け!
なに、安心しろ。私は過去の
さあ、帝国の勇士たちよ。私を超えて見せよっ!」
教会の者たちは怯えているよう。
ふむ。少しやりすぎたかもしれないな。
それにしても、サナ殿は頑張ったようだ。
この大軍勢相手にまだ生きているのだ。そして、全身に刻まれた裂傷。魔術戦を得意とする魔女が刃を受けたということ自体が激戦の証なのだから。
教会の兵たちの刃が私に向けられる。その剣先は微かに震えている。
『龍刀』を使うのも久しいな。
腰の愛刀を一息に抜く。美しい白刃が辺りの鮮血を映して真紅に染まる。戦場独特の気配。殺気と怯えが交わったそれを感じながら一歩、踏み出した。
空気を切り裂きながら漆黒の刃が迫る。
「っ!! 流石に多過ぎるんじゃない!?」
目の前にいるのは、二本の腕がそのまま鎌のように変形している。
そんな異形が数え切れないほど。
その全てが強奪の魔女である私を狙っている。
あの裏切り者。相当、禁忌に手を出してるみたいね。
この異形どもは模造品。禁忌たるあいつの兵の偽物。制御権はあの裏切り者にあるはず。
だったら。
強奪を甘く見ないことね。いくらなんでも本物から強奪はできないけど。
同じ魔女なら。
「我が名は強奪」
模造品に手を向ける。ただ一つのことを願って。
それは、この名の所以。ただそれだけ。
「これは‥‥‥わたしの物よ。
『強奪ッ!!!』」
瞬間、模造品どもの動きが停止。糸が切れた操り人形のように項垂れる。
「壊れなさい」
そして、言葉に従い砕け、自己崩壊。
それよりも。
「これ、流石にまずいかも。
ここに模造品があるってことは、戦場には‥‥‥まさかっ!!!」
はやく、はやく戦場へいかなくちゃっ!
いくらハーサがいるとは言っても、本物の使徒が来られたらヤバいかもしれない。
フェーニが打ち倒した「模造品」には、強い魔力と神々しい力が宿っていた。
戦場を白刃と共にハーサが舞い、駆け抜ける。
私を傷だらけにした時よりも密度の高い攻撃。一瞬で襲いかかる数十の斬撃、その全てを躱し、受け流し、ハーサは刀を振るう。
そして、その一振りは必中。
一撃で多くの兵が弾き飛ばされる。
圧倒的な力量の差。超えることのできないそれが、教会の兵たちとハーサの間に横たわっていた。
あれが、龍刀。
世界で最も多くの魔女を殺した最強の刃。
そして、世界呪の魔女を追い詰めたという古の剣術。
確かにこのままハーサ卿に頼っていれば勝てるのだろう。
でも、それじゃあ意味がない。
『そう、これはお前の戦いなのだから』
久しぶりの悪魔の声。
まったく、何処に行ってたのやら。
『どうするのだ?』
そんなの決まってるじゃない。
あいつらを倒す。例え、この身が果てようとも。
『うむ。その通りだな』
満足げな悪魔の声。
私はこれでいい。ここでこの大軍相手に命を散らしても悔いはないっ!
「千年呪の名において、この命と共に命ずる‥‥‥」
その声を聞きながら、「悪魔」は嗤っていた。
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