第8話 魔女と旅人と戦略同盟②
「これから、出掛けるよ」
「‥‥‥え?」
旅人は部屋に入ってくるなり、サナにそう言い放った。
時は夜遅く、外は漆黒の闇に覆われている。
そのような時間から外出。
嫌な予感しかしない。
何をする気なのかはわからないが、まあ、碌な《ろくな》ことではないだろう。
それでも、扉を開けたのは自分自身である。
ならば、行くだけ。
人としての生、その最期は悲惨で後悔しかなかった。だから、魔女としての命はせめて、後悔の無いようにしたい。
そう覚悟を決めたのだから。
そんなことがあった故、サナは夜闇を駆けていた。
「‥‥‥で? 何処に向かっているの?」
「ん? 戦略同盟のお偉いさんの家だよ。
ちょっと、話が必要だから」
「‥‥‥はぁ!?」
そして、驚愕の叫びが夜の静寂を切り裂いた。
「大きな声出さないでよ。見つかったらどうするのさ」
『‥‥‥消せばよかろう』
悪魔がなかなか洒落にならないことを言いやがった。
「そんなことしていい訳ないでしょ!?」
サナが慌てながら諭す。
『‥‥‥冗談だ』
「冗談に聞こえないのよ」
そんなやり取りの末、気付くとサナは一つの豪邸の前にいた。
「ここなの?」
「ああ。そうだよ。
ここが、戦略同盟の国主の一人、ハーサ・ハイク卿の中央都市邸宅だ」
「‥‥‥ハーサ・ハイク卿って、あの『龍刀』の?」
「そうだよ」
「私、死ぬかもよ?」
『龍刀』のハーサ。
それは、千年呪の魔女たるサナさえも脅威と思うほどの実力を持つ、戦略同盟最強の魔女狩り。
古来より伝わるという伝統武術『龍刀』の後継者であり、その逸話は他国にまで轟くほど。
『教会』の勇者と同等以上とも謳われる魔女殺しの大英雄である。
そんな規格外のところに魔女であるサナが向かえばどうなるかなど、想像にかたくない。
それ故の「死ぬかもよ」発言だったのだが、旅人は大したことではないかのように「大丈夫だよ。きっと」と返す。
「きっとって‥‥‥。できれば、断言して欲しいんだけど」
サナがそう言ったその瞬間、旅人の纏う気配がガラリと変わった。
ゾッとするほどの殺気が放たれる。
「そんなんで、どう生きていくんだ?
得体の知らない旅人に頼って、魔女として生きていけるのか?
世界の敵、災厄をもたらす魔女は、他者に頼っていてはすぐに死ぬぞ。
それでもいいのなら、おれに頼れ。
死にたくないのであれば、自らの実力で生き抜け。
それが、魔女であるということだからな」
『急にどうしたのだ?』
悪魔も困惑している。
「僕が一緒にいるのもここまでということだよ。
千年呪の魔女、そして伝説にその名を残す悪魔さん。
次会うときは、もう千年だけじゃあないいかもだけどね。
じゃ、またね〜♪」
その姿が、虚空に溶けるようにして薄くなっていく。
そのまま消えていく旅人を止める手段をサナは持っていない。
そして、今までの殺気が幻だったかのように、明るい声を残し旅人は去っていった。
「しょうがないから、入るかな」
『ああ。行こうではないか』
そうして、千年呪の魔女は龍刀の館へと入っていく。
その先に待ち受ける真実を知らずに。
「さて、次は見た。
今頃、今代は何を思ってるんだろうね?
楽しみは増えるばかりだ。
次は君だよ。
世界呪の魔女、イヴ」
どことも知れない闇の中、旅人はそう呟いた。
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