第7話 魔女と旅人と戦略同盟①

 サナは、さりげなく辺りを警戒しながら、謎の深い旅人と戦略同盟内を歩いていた。

 もちろん、その警戒対象には旅人も入っている。

 でも、当の旅人は‥‥‥


「おお! これが噂のバベランやきかぁ。

 いやぁ〜、この柔らかさと絶妙な甘み、本当に美味いな《うまいな》!」


 ‥‥‥買い食いをしていた。

 名物らしいお菓子に夢中になっている。

 その姿はまるで幼い子供のよう。

「ねぇ。あの旅人、ほんとにさっきと同一人物なの?」

 呆れた声でサナはそう言った。

 サナの魔術迷彩を見破り、さらには魔術干渉という絶技までやってみせた人とは思えない行動である。

『ああ。そのはずなんだがな‥‥‥』

 最早、悪魔でさえも呆れていた。


 呆れられている旅人は、それでも観光を続けていく。

 そうして、同盟の中央都市バべランの大半を周り終わるころには、すっかり日は落ち、闇に沈んでいた。

「つ、疲れた‥‥‥」

 結局、一日中連れまわされたサナは、広場のベンチでくたびれていた。


「さて‥‥‥とっ。次はどこに行こっかなぁ。

 サナは何処がいい?」

「‥‥‥っ! 馴れ馴れしく話しかけないで。

 あと、疲れたから、もう寝かせて」

 まだ何処かに行きたいらしい旅人の発言にサナは滅入る。

「全く、何処からその体力が出てくるんだか‥‥‥」

 その独り言は、もっともな話である。

「‥‥‥ん? 僕のことかい?」

「‥‥‥あなた以外に誰かいるとでも?」

 サナの独り言を聞きつけた旅人がふざけて、軽い言い争いに発展していく。

 もはや、見慣れた光景となりつつあるそれを、サナの肩にのる黒猫な使い魔と悪魔は、呆れて見ていたのだった。


 その夜。

 大きな満月が静まり返った戦略同盟を優しく照らしている。

 そんな月夜の闇の中を二つの人影が駆けている。

 それは、闇に紛れる漆黒の装束と紺の外套を纏っていた。

 夜闇を駆け抜けながら、サナはこうなった経緯を思い返していた。


 陽光が、最後の煌めきを見せながら、地平線に沈んでいく。

 その絶景を眺めながら、サナは戦略同盟の中央都市、バベランにとった宿の一室にいた。


 「はぁ〜。疲れた〜」

 今日一日はあの旅人に振り回されて散々だったのだ。

 流石に疲れを癒したい。

 それにしても、あの旅人は何者なのだろうか?

 魔女であるサナさえも圧倒するような魔術の技量があるにも関わらず、どこか子供のようなところがある。

 一体、どのような生活を送っていればそうなるのやら。

 サナがそんなことに思考を巡られていた時、コンコンと、部屋のドアが叩かれた。

「‥‥‥誰ですか?」

 警戒を忘れてはいけない。

 サナは世界中のお尋ね者である千年呪の魔女なのだから。

 もしかすれば、昼間の散策中に『教会』の者に見つかってしまったかもしれないのだから。


 まあ、それはないだろうけど。

 扉の向こうに感じるのは、今日一日中、サナを振り回したあの男の魔力なのだから。

 それも戦略同盟の外壁で会ったときのように、微かに魔力が荒ぶっている。

今度は何をするつもりなのだろうか。

良いことではないような気がする。


それでも、それが己の為になると思うから。


サナは扉を開けた。

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