第4話 戦闘国家

 旧王国と白嶺帝国の間、そこには大陸最大の淡水湖である英王湖の他にもいくつかの小国がある。

 その小国は、いずれも弱小。一国では、帝国はおろか、旧王国にさえ滅ぼされてしまうだろう。

 それ故に、己が身を守る為。幾つかの小国は団結した。

 ヴァリセア戦略同盟。

 それは、十数の小国の連合。帝国、旧王国に対抗する為、英王湖周辺の国家が団結したものであった。

 そして、帝国をはじめとした幾つもの大国の侵略を同盟は阻み続けていた。

 国民皆兵。同盟には、男女を問わず従軍義務があり、有事の際には全国民が戦場へ赴くこととなっている。そして、軍事訓練に力を入れることにより、その兵は全員が精鋭となっている。

 領土を侵した者に容赦はなく攻撃を仕掛け、これまでに幾度となく帝国を押し返した実績をもつ大陸最強の名をほしいままにしていた。

 帝国が、サナと戦うのであればこのヴァリセア戦略同盟の地は避けては通れない。

 今回の魔女討伐、最大の難所であった。


「‥‥‥あっ」

 己が城の頂点にて、淡いピンクの可愛らしい私服を着ているサナが唐突に声を上げた。

『む? サナよ。どうしたのだ?』

「え? ああ。昔聞いた話を思い出しただけよ。

 あれは‥‥‥村に来た行商人からだったかしらね。

 その行商人は英王湖の方の出身らしくて、戦略同盟について話してくれたの。

 ヴァリセリア戦略同盟は、国民皆兵。つまり、ほぼすべての国民に従軍経験があるの。

 そして、その経験から強者を敬う国民性があるらしいの。

 それに、同盟は、その結成目的からして帝国とは不仲だし。

 だから、もしかしたら‥‥‥ってね」

『ほう。なるほど、そういうことか』

 そう悪魔がサナの考えを察する。

『そうであれば‥‥‥』

「うん。早い方が良いね」

 その言葉と同時。

 私服姿のサナを漆黒の魔女衣装が包み込む。

 そして、そこには一人の魔女が現れる。

 魔女が言う。

 それは、予言にも等しき絶対力を持つ宣言。


「さあ。国を落としましょう」


 _________________________________________

 ヴァリセア戦略同盟中央都市 バベラン。

 そこは、英王湖周辺の小国連合であるヴァリセア戦略同盟において、首都の代わりとなるものである。

 同盟に参加している国ごとに首都があり、同盟としての首都をどこか一国に置くことが出来なかった為の中央都市である。

 事実上の首都ではあるのだが。

 ちなみに、何処に中央都市を置くかで揉めに揉めて、最終的には当時の各国主たちがジャンケンで決めたとかそうでないか‥‥‥。

 閑話休題。

 そんな中央都市バベランは、緊張に包まれていた。

 因縁深き帝国が、千年呪の魔女討伐の為、戦略同盟の土地を通る許可を要求してきたからである。


「どうするのですか!? まさか、帝国の要請を受け入れるとでも!?

 帝国に屈するのですか!?」

「まさか! 帝国の蛮族共にこの地を踏ませるつもりはない!

 だが、魔女は脅威だ。それを討伐するというのであれば‥‥‥」

「そのようなことでは、帝国との戦闘で散っていった者たちに申し訳が立たないではないか!」

「しかし‥‥‥」

 議会は紛糾していた。

 魔女という世界の脅威か、それとも因縁の帝国か。

 どちらに敵意を多く向けるかの問題である。

「此度の世界呪の魔女は、”大魔女級”とも噂されています。

 王国を瞬時に壊滅させたのです。

 それほどの災厄、放っておけば間違いなく取り返しがつかなくなるでしょう。

 ここは、恥を忍んで、帝国と手を組んででも討つべきかと」

「うむ。

 あとは、民の意見に任せるべきか‥‥‥」

「しかしっ!

 そのままでは、同盟は帝国に落とされますぞ!

 魔女が消えた後。かつての王国の地を手に入れるため、帝国は再び同盟に侵入するはずです。

 帝国本土に加えて、王国の地さえも帝国のものとなれば、同盟は挟めれたも同然。

 栄えある同盟の大地が、蛮族のものとなってしまいますぞ!!

 ここは、帝国が魔女を討つと同時に、旧王国の地に攻め入り、そこも同盟の属領とするべきです!!」

「だがな、ハイク卿。

 そろそろ、帝国と和解してもよいのでは。という意見も国内にはあるのです」

「帝国と敵対していれば、交易路が塞がれてしまっているのです。

 同盟の存続を考えれば‥‥‥

 お気持ちはよくわかりますが、ここはお引きくだされ」

「‥‥‥くっ!!!」

 帝国と最も近いアルバーグ自治領の領主であるハーサ・ハイク卿は、議席に並ぶ各国の国主たちの態度から、己の不利を悟る。

 そして

「後悔なされますぞッ!!!」

 その捨て台詞を最後に、議会から荒々しく去っていく。


 荒々しく閉じられた会議場の扉。

 それを見て、残る国主たちは嗤った。

 ある者は、その愚かさを。

 ある者は、帝国の所業を。

 そして、ある者は、己の醜さを。



 戦略連合の国主たちはまだ知らない。

 ひとりの旅人が、この国に入ったことを。

 そして、その旅人とひとりの少女が、すべてを変えることを。

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