第3話 宣戦布告

『それで? 私をどうやって殺すのかしら、皇帝陛下?』

 突如、使い魔を通して帝国最高評議会に乱入した千年呪の魔女、サナは唖然とする各国の国主そ尻目に、己を殺そうとする皇帝ハシファルに問うた。

 それは、明らかな挑発。

 帝国の、いや、教会の最高機密である最高評議会に侵入される程度で、魔女が殺せるのか? 殺せるものならば、殺してみろ。そう言っているのだ。

 それに対して、ハシファルはあまりにも冷静。

「ほう。きみが千年呪の魔女か。

 どうやって殺すか? そんなの決まっているだろう。

 儂ら教会の刃がその喉を切り裂くのだよ」

 いや、冷静すぎた。

 まるで、サナがそこにいることを知っていたかのように。

『そう。私がいることを知っていたのね。

 なら、一言だけ言うよ。

 私に干渉しないで。

 そうすれば、私は教会あなたたちに干渉しないから』

 その一言を残して、使い魔である黒猫の姿が、現れた時と同じように虚空に消えていく。


 そして、沈黙がその場を支配した。

 国主たちは、今まで以上の脂汗を流して、千年呪の魔女という脅威に怯えきっている。

 長き沈黙の果て、国主の一人が言う。その声に怯えの色をにじませながら。

「どうするのですか? あの魔女は侵攻しなければ、こちらに干渉しないと‥‥‥」

「何を言っておるのだッ! アレは、魔女!

 世界に災厄を齎す《もたらす》バケモノですぞ?

 そんなものを放置するわけにはいかないでしょう!

 今でさえ、此処に侵入するほどの力を持っているのだ。

 今のうちに討たなければ、世界にとって大きな脅威となりましょう。

 今、討伐すべきだ!!」

 強硬派の国主がそれに反論し、会議場は議論の渦に呑まれていく。

 その喧騒を耳にしながら、皇帝ハシファルは、瞳を閉じ思考に沈んでいった。

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 瓦礫の上の魔女の城。

 周囲には何もなく、それが魔女の孤独を表しているようだ。

 そんな孤城の最上階。

 そこに美しき少女にして、永劫の孤独を抱える千年呪の魔女、サナがいた。

「はあぁぁぁぁあああ。疲れたぁぁぁぁ」

『どうだったのだ?』

「ん~? たぶん、二日は稼げたと思うよ。

 さすがに、相当混乱してたからね」

 サナも悪魔も、最高評議会に乱入した程度で教会の侵攻を止めることが出来るとは考えていない。

 出来るのはせいぜい時間稼ぎ程度だろうと理解している。

 だからこそ、稼いだ時間をもって侵攻に備えるしかない。

 そして、時間稼ぎのために最も有効なのが、最高評議会への乱入なのだ。教会の最高機密に侵入するだけの実力を持つ魔女の討伐となれば、国主たちの間で議論になるのは必至。そして、いくら教皇といっても議論を強引に中断し攻め入ることを決定させるだけの権力はない。つまり、議論が続く間は時間が稼げるのだ。

 まあ、使い魔で情報収集をしていたら偶然評議会を見つけただけなのだが。

 ちなみに、サナはそれを偶然だと思っているが、悪魔はそのことに戦慄している。教会の最高機密が、使い魔対策などしていない筈がないのだから。それでも、見つけたということは、やはり、サナの才能がに限りなく近いということかもしれないのだから。

 悪魔が、サナに問いかける。

 その声には、隠しきれない高揚。

『そうか。

 では、我が魔女よ。始めるとするか』

「そうね。

 教えてあげるわ、魔女を殺そうとするとどうなるのかを。

 そして、この世で最も『世界呪の魔女』に近い、この私の千年の重みを」


 これより、世界は戦乱に巻き込まれていく。

 全ては、世界呪の魔女の名のもとに。

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