第一章 

第1話 悠久の孤城に魔女は在る

 これは、ひとつの昔噺。


 昔々、およそ、百年ほど前のことです。

 ひとりの少女が辺境の村に住んでいました。

 彼女は、住んでいる村のみんなから、とっても愛されていて、心の底から幸せでした。

 でも。幸せは続かないものです。

 少女の村は、国の人たちに燃やされてしまったのです。

 少女は、とても悲しみました。そして、その国の人たちを妬みました。憎みました。

 そうしたら、その少女は呪われてしまいました。呪われた少女は魔女となって、自分の故国を滅ぼしてしまいました。

 そうして、少女は故国の都に自分のお城を建てました。それが、悠久の孤城。かの千年呪の魔女のお城です。

 そして、少女こそが、恐ろしい千年呪の魔女なのです。

 少女は、人を憎んで、神への信仰を失った為に魔女となってしまったのでした。

 魔女となった少女を正義の教会は、ゆるしませんでした。魔女とは、その存在が危険だからです。

 そうして、教会の『魔女狩り』が千年呪の魔女退治に向かい、多くの犠牲を出しながらも千年呪の魔女は、退治されたのでした。

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 かつての王都。そこに在るのは、巨大な城。魔女になったばかりのサナは、その城の最上階に作られた自室で寝転がっていた。

「暇ぁ〜」

『‥‥‥だろうな』

 いくら、千年呪の魔女といえどその本質は、少女である。することもなく、ただ城の最上階にいるだけの生活など耐えられるはずもない。

 外に出られないのは、外には『魔女狩り』がいるからなのだ。さすがに、魔女になったばかりのサナでは、歴戦の『魔女狩り』を退けることはできない。

 それが、悪魔とサナ自身の判断だった。

 しかし、それ故にサナは暇を持て余していた。魔女の暇は、とても危険である。過去には、暇だからという理由で滅ばされた国さえある。

『そうだな。そろそろ使い魔があった方がいいのではないか?』

「使い魔?」

 その提案に首を傾げたサナに、悪魔が説明する。

『そう、使い魔だ。

 例えば、そうだな。ネズミなどの小動物に魔力を与え使役するのだ。そうすると、使役した動物の視界や聴覚を覗くことができるようになる。

 まあ、魔女ならば大半は使っているのではないか? ‥‥‥まあ、知らぬがな』

「ふーん。

 他の国の様子も知りたいし、いいかも。

 そうねぇ。じゃあ、猫にしようかな」

『‥‥‥ふむ。やってみれば良い』

 すこし、悩む様子を見せ、悪魔が言った。

 単純な話、大きい生き物ほど使役するのは難しいのである。さらに、大きいほど自我が強くなる。そして、自我が強いほど使役主の言うことを聞かなくなってしまう。

 そのため、――面倒なのもあるだろうが――普通は魔女でさえも使い魔はネズミなどの小動物が多い。

 正直、悪魔は成功しないだろうと考えていた。

 さらに言えば、サナのいるこの城はかつての王都、激戦のあった場所だ。

 ひとつの首都が崩壊するほどの苛烈な戦闘。そんなものの跡地に猫はおろかネズミの一匹さえいるわけがない。そのため、どうしても遠くの生き物を使役しなければいけないのだが。距離が長くなるほど、使役の難易度は上がっていくのだ。

 正直、魔女に成ったばかり少女が出来ていいものではない。


「ん〜?

 なんでできないんだろ? 

 やり方は、あってるはずなのになぁ」

 可愛らしい独り言を零しながら苦戦するサナを見て悪魔は穏やかな気持ちになる。

 そして、願うのだ。

『どうか、この平穏が続きますように』

 そんな、叶うはずもない願いを。

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 ひと時の平穏が訪れている魔女の城。

 そこから、遥か遠く、西の果て。

 もはや、大海の如き、大陸最大の英王湖の向こう側。


 そこにあるのは、教会の治める白嶺帝国。その帝都、教会本部。

 そこでは、会議が開かれていた。

 教会関連の国々の重鎮たちが集まった重大な会議だ。

 そして、一国の主と同等の権力者たちを一声で召集した者こそ、教会という巨大組織の長。

 召集した国主たちを一段高いところから見下ろす老人。であり、かつては、魔女殺しの英雄と謳われ、かの原初の魔女もその実力を認め、その名を大陸中に轟かせた、世界最高の勇者。

 白嶺帝国皇帝にして、『教会』教皇。

『魔女殺し』ハシファル・イスカンマリ。

 白髭を蓄えた老人はその威厳をもって列強の国々の長たちに話し出す。

「さて、儂のような老人の呼び声に応えてくれて、ありがたく思う。

 早速だが、本題に入ろう」

 声こそは、穏やかな老人のものだったが、潜められた威圧と威厳に気付かぬ者は此処にいない。

 各国の長は密やかに唾を呑んだ。

「貴君らも知っていると思うが、また一人魔女が現れてしまった。魔女の現れた王国は滅び、魔女は力をつけている。

 このままでは、大陸の危機となるやもしれん。

 それ故に、これより我ら教会はかの魔女を脅威とみなし、討伐に『魔女狩り』を派遣する。

 そして、貴君らにも、協力をお願いしたい。

 これは、儂個人ではなく、白嶺帝国としての要請であり、世界の為のものでもある。

 かの魔女は、今は未熟なれどいずれは、伝説に語られる世界呪の魔女ほどの力を得るだろう。

 未熟である今のうちに、厄災を断つ!

 返答は、この後一月以内にして頂きたい。

 では、貴君らの賢明な判断を願っているよ」

 そう言い残し、老人がその場を後にする。

 去った後に残るは重き沈黙。

 そのなか、国主たちが脂汗を浮かべ俯いていた。



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