追録 千年呪と滅びた村
強奪の魔女の去った王都。
瓦礫の散らばるそこに千年呪の魔女、サナはいた。
辺りに広がるのは、瓦礫の山。かつてあった、豪華な王都は影も形もなく。どれが、サナの望んだ復讐の結果であり、二人の魔女が争った痕跡でもあった。
でも。その光景を見て、サナは悲しいと思ってしまうのだ。
それは、間違いなく己の為した行動ゆえの光景だというのに。
何故か、そう感じてしまうのだ。
「なぜなのだろう。妾は、おかしいのか?
魔女なのに、此処を滅ぼした魔女であるのにも関わらず‥‥‥‥何故?」
『アホか、お前は。
強奪にも言われただろう。
サナよ。お前が千年呪の魔女であり、千年呪の魔女がお前なのだ。
いい加減認めよ。サナという少女は消えたわけではない。魔女という新たな貌を得ただけなのだ。そして、いくら魔女とて、多少は「人」であっても良いのではないか?
だから。その言葉遣いも直した方がよいとおもうがな』
悪魔の呆れつつも優しさのこもった言葉。
それを聞いて、千年呪の魔女は気付く。己が、魔女としての自分と人としての自分を分けていたことに。
「そうね。魔女でも、私は私よね。
人なら、悩んでもおかしくないよね」
そうか。
サナは、悟る。自分は魔女であり、それ以前に一人の人間なのだと。
「‥‥‥ありがと。悪魔」
風に流されたその呟きを、悪魔は聞いたのだろうか。
いや、そんなことは問題じゃない。誰が何と言おうと、私は私なのだから。
千年呪の魔女、サナはそう思って。‥‥‥‥‥‥‥一言、言葉を紡いだ。
「私は、此処に在る。きっと命尽きるまで」
それが、サナの想い。
矛盾を孕んだ。けど、純粋な想い。
「此処が私の家。
『大地よ、意志を持て。これが、私の願い。この地に永劫の城を造れ、それこそ、この千年呪が居るべきところなのだから』」
それが、示すは人に対する干渉をしないという誓い。魔女の住む地は、その膨大すぎる魔力の影響により自然と荒野になる。その生き物の耐えられない程の魔力濃度の地に人が住むことはない。それ故の不干渉の誓い。
その意志に応じて大地が形を変える。遥か遠方の山が砕け、その破片が飛んでくる。
王都の土地も重力に逆らってサナの周りを漂う。それは、まさしく天変地異にも等しき光景。即ち示すのは、そこに災厄の化身たる魔女がいるということ。サナが起こしたのは、そのことを世界に知らせるための天変地異。
そして、山の破片と宙を舞う大地の欠片が組み合わさり、ひとつの城を形作っていく。それは、かつての王都を覆うほどの大きさを誇る城。
そして、千年呪の魔女、サナの居城となる城でもあった。
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かつての王都に魔女の城が建てられ、世界が千年呪の魔女の存在を知った頃。
焼け果てた辺境の村に一人の女がいた。
女は、まだ燃え盛る炎があるなか、まるで、自らの庭を散歩するかの如く、悠々と屍転がる村の中を歩いていた。
「これでは、生きている者などいないかもしれないな」
内容に反して、その声に人を案じる感情はない。
「ここは、ダメだな」
そう言い残し、女が村を去ろうとしたとき。
「ん?」
倒壊した民家の瓦礫の下、潰されるように倒れ込んだ人に目が止まった。微かに息のある人。
それは、全身に大火傷を負って見るも無惨な姿の少年だった。その四肢の骨は、ことごとく折られ、無事なところはどこにもないような有り様の、生きていること自体が有り得ないような状態だった。
「少年。何故、生きている?」
女が声もかけると、僅かにその少年が動く。
その動きから、女は少年の意志を見出す。
「ほう。助けなければいけない
ならば良い。生きたいのであれば、我と来い。貴様に永劫の生を与えてやろう」
火傷によって醜く爛れた少年の手が伸ばされて、女に触れる。
「我は、世界にいる
少年よ、我の元で悠久を生きる覚悟はあるか?」
こうして、一人の魔女により一人の少年と世界の運命が捻じ曲げられた。
これは、後の魔女殺しの少年の凄惨な物語の始まりだった。
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