第7話 王都決着 -前-
「‥‥‥そうして、少女は魔女になったのよ」
遠い過去の話、誰の記憶からも消え去った少女の話を、強奪の魔女はフェーニはそう締めくくった。
「‥‥‥そうか。だが、此処は妾のもの。貴様にくれてやるつもりはない」
「納得は示す。けど、此処は渡さない、ね」
サナの言葉に、フェーニが苦笑しながら答える。
フェーニがふと表情を変える。
「‥‥‥生きる、理由、ね。
わたしは、魔女として数百年の時を生きてきた。
その途中で幾人かの魔女の誕生も死も見てきた。魔女として死んでいく者もいたけれど、少しは人として死んだ人たちもいる。わたしには、なにが幸福で、なにが不幸な死にざまなのかわからない。ただ、わたしは、いつまでも、死ぬ時まで、強奪の魔女でありたいと思っている。
求めるすべてを奪って、欲するすべてを自らのものにする。魔女として生きて、魔女として死ぬ。
それが、わたしの魔女としての道で、そう在りたいから生きていく。
これが、わたしの生きる理由よ」
強奪の魔女は、そう言い切る。それが、彼女の魔女としての覚悟。
それが、サナには分かったから。
「結局、どうする。戦うか?
妾は、この土地を譲るつもりはないぞ」
だから、サナは千年呪の魔女として問う。互いの誇りと魔女としての覚悟をかけて戦うか?と。
「別に、わたしはどうしても、此処が欲しいわけじゃないの。
でも、このままだとすこしつまらないからね。
サナ、相手をしなさい」
強奪は、嗤う。どこまでも獰猛に、魔女として戦おうと、千年呪を誘う。
それに、千年呪の魔女は、応える。同じ魔女である強奪が、それを望んでいると分かったから。
「ほう。妾に勝てるのか?」
宙に舞う強奪と、竜に乗った千年呪が睨み合う。
その遥か下。王宮が、紅の炎に包まれている。
両者の間を沈黙が満たし、高まってく。
まるで、それに耐えきれなくなったかのように、王宮を包む炎が轟音をたてて爆ぜた。
それが、合図。
「『此処に、強奪が願う。
奪い取るは、千年呪の名を与えられし魔女の力なり。
顕現せよっ!
空を断つ極光の龍王よッ!!』」
「『今、千年呪の名において命ずる。
召喚するは、闇色の獅子。夜闇に潜み、影に生きる、暗黒の支配者なりッ!』」
ふたりの呪文は同時。
そして、極大で、緻密な魔法陣が空中に現れ、膨大な魔力が生み出される。
その魔力が、ふたつに集束していく。
ふたつの咆哮が、天に響き渡る。
それが、消えたとき。
そこには、色鮮やかな龍と、漆黒の獅子がいた。
二人の魔女が命ずる。己の呼び出した龍と、獅子に。
それは、全くの同時。
魔女たちは、叫んだ。
「「さあっ!殺せッ!!!!」」
龍が、美しい軌跡を空に刻みながら翔る。
獅子が、全てを闇に変えながら天空を翔る。
その瞳に、殺すべき互いの姿だけを映して。
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