第6話 強奪の所以

 己を見つめる千年呪の魔女の瞳。それを見て、強奪の魔女は、自らが魔女になった頃の事を思い返していた。

 ひとりの少女が、不幸に”堕ちる”物語を。

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 数百年前。

 魔女が猛威を振るい、それに対抗する『教会』が魔女を狩り続けた戦乱の時代。

 そんなとき、辺境の小さな村にひとりの少女が生まれた。

 少女の家はとても貧しかったが、少女は両親にとても愛され幸せだった。心の底から幸福を感じていた。

 だから、この幸せ永遠に続くと信じていたし、祈っていた。


 でも。これは、少女が”堕ちる”物語。

 この時代、それは血で血を洗う争いの時代。そんな時代に貧しい家の子が、まともに生きていけることなど、無きに等しいほどだった。


 そう。あの少女も、その例に漏れず不幸に堕ちた。

 

 気付くと少女は孤児院にいた。

 そこに両親の姿はなく、周りには同じ境遇の、親から捨てられた子供たちだけがいた。

 ____________ 「今日から、皆さんは家族です」_____________

 此処にきて初めて言われた言葉だ。安っぽい、薄い言葉。軽い慰め以下の言葉。

 そんなこと言われなくても、ここの子供たちは、分かっているはずだ。

 家族なんて、血のつながった本当の両親しかおらず、そして、自分たちはその家族からさえも見捨てられたのだということを。

 だから、孤児同士は基本的になれ合わない。どうせ、形だけの家族もどきに過ぎないのだから。本当の家族はもういないのだから。

 だから、親しくする必要などなかった。


 だから、街中で仲睦まじい親子や、恋人たちの姿を見ると、どうしても「欲しい」と思ってしまう。自分からは奪われたその幸せが欲しい、と。

 そして、なんで、わたしじゃないの?とも。

 わたしは、何もしていないのに、なんでこんなに不幸なの?

 わたしはただ、幸せでいたかっただけなのに。

 わたしとあの人たちは何が違うの?

 ただ、生まれた場所が違うだけなのに。


 ズルい。なんで、わたしはこんな目にあっているの?

 街を歩くアイツらは幸せなのに。

 なんで、わたしは捨てられたの?

 アイツらは、大事にされているのに。

 どうせ、わたしを捨てた両親は、どこかで幸せに暮らしているんだ。わたしのことなんか忘れ去って。もう、手放した子供になんて興味なんてないんだ。

 そうじゃなきゃ、こんなところに置いていかないよね。


 一度始まった思考は、不満は、止まることを知らない。止めようとしてもあふれ出してくる。


 なら、わたしも自由にしてもいいよね。

 わたしは、幸せが欲しい。限りない幸福が欲しい。

 街を歩く奴らの幸福が羨ましい。あの幸せが欲しい。

 奴らの持っているすべてが欲しい。すべてを奪い去ってしまいたい。

 すべての幸福をわたしのものにしたい。

 ああ。どうか、だれか、この願いを叶えて。

 それだけが、わたしの望み。このためになら、わたしは‥‥‥‥‥

 ‥‥‥‥魔女にでもなろう。


 その夜、この世界からひとつの街が消えた。

 まるで、街そのものが誰かに奪われてしまったかのように、塵一つ残すことなく消えていた。


 あの夜、消えた街の上空に、ひとりの少女が浮いていたという目撃情報があるそうだ。 

 

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