第5話 魔女とは。生きるとは。
王都は、廃都と化していた。
千年呪と、強奪。その二人の魔女の闘いによって。雷光の獅子と、烈火の竜が豪華絢爛だった王都を破壊し尽くしていく。それは、まさしく、災厄をもたらす魔女の体現の如く。
雷光の獅子を侍らせ宙を舞う強奪の魔女、フェーニは、地より己を睨む千年呪の魔女を眺めていた。その千年呪の魔女、サナの瞳にはフェーニに対する敵意のみがある。フェーニは、サナに問う。
「千年呪の魔女。貴方が魔女になったのは何のため?
何故、私と戦うのかしら?」
「‥‥‥それは‥‥」
魔女になったのは、復讐の為だ。唯一無二の居場所を、家族を奪われたことに対する復讐の為。
じゃあ、その後は?
憎き家族の仇を討った後の今は?
なんで、この魔女と戦っているの?
___________祖国の為?
いや。そんな訳がない。もう、私の愛した祖国は無いのだから。この手で、消し去ったのだから。
___________じゃあ、なんの為に戦っているの?
本当に、この戦いに意味はあるの?
例え、勝ったとして。その後、私はなんの為に生きていくの?
この私に。魔女に堕ちた私に生きる価値なんてあるの?生きる意味なんてあるの?
‥‥‥‥‥そんなもの、ある訳ないじゃない
なら。此処で死んでも悪くないんじゃない?
誰にも知られず。滅した故郷の土の上で、同じ魔女に殺される。そんな無様な死に方。
生きる価値のない私なんかには。
相応しい死に様かもしれない。
自問自答の末、サナの瞳が諦めと絶望に染まる。
その瞳を見て、フェーニは嗤う。多少の寂しさを込めて。
「そう。なら、もう死になさい。貴方に魔女は重すぎた。
死を齎す。それが、私にできる貴方への唯一のする救済。
『いま、此処に強奪が祈る。欲するのは千年呪の命、願うは彼女の救済。
奪え、欲するものを手に入れる、そのために‥‥‥魔女になったのだから。
契約を施行せよ。すべては、望むままにっ!』
どうか、千年の呪いから救われますように」
強奪が放つは救済の死。白い閃光が放たれる。それは、触れたら死を齎す、情けの光。
死が、救済がサナに迫って‥‥‥‥
『ふざけるなッ!!』
突然、悪魔が怒鳴った。
『何故、死のうとするッ!千年の呪いを背負うのではなかったのか!?
その手で殺めた人間どもの分まで、生きよッ!その罪業から逃げるなッ!
それ故に、生きろッ!サナッ!!!!!』
それは、悪魔の願い。苦しくても生きていってほしい、魔女として。
だって、生きていてほしいから。
だから、魔女としてではなく「サナ」と呼んだ。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥こんな私でも、生きていっていいのかな?」
返ってきたのは、弱々しい少女の声。
だから、悪魔は力強く答える。彼女を、唯一無二の相棒を支えるために。
『ああ。それが魔女だ』
「そう。
‥‥‥‥‥‥‥‥ありがとう」
サナが前を向く。
視界に広がるのは、死を齎す、けれど、優しい光。
このままでいれば死ぬことが出来る。救われる。
生きていれば、辛く苦しいことも待っているだろう。魔女として、人類の敵として殺されてしまうかもしれない。それは、怖いし、嫌だ。
でも。それでも、生きていきたいから。生きて、その罪を背負ってでも生きていきたいから。
「私は、いや、妾は、生きていくッ!!!」
サナが叫ぶ。それは、千年呪の魔女としての覚悟。
「『妾の名は、千年呪ッ!!!』」
直後、魔力が広がり、盾となる。盾が、光を押しとどめる。
ピキッ!
でも、盾は瞬時に罅がはいり、砕け散る。
「『大地よ、怒れっ!』」
瞬時に、サナの呪文。
大地が割れて、そこから岩でできた竜が飛び出していく。その額にはサナが乗っている。
触れたものから命を奪い取る致死の光は、命なき岩の竜に当たって無為となる。
竜の額から、同じ高さとなった目線を合わせて、千年呪の魔女は強奪の魔女に問う。
「何故、あなたは生きていくの?」
それは、静かな声だった。
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