第4話 略奪者

 「えっ!??」

 『‥‥‥ほう?』

 突然、虚空から現れた女の宣言に、いつも冷静な悪魔さえも驚愕を含む反応をする。

 サナに至っては、驚きのあまり少女のような可愛らしい声だった。

「あれ?理解できないの? 

この国をわたしがもらう、と言っているのがけど?」

 虚空より現れた明るい茶髪の女が、宙に浮きながら言う。何故?理解できないことが、不可解であるといったように。

その態度を見た悪魔が、サナに告げる。

『魔女よ。アレは本気のようだぞ?』

「ええ。そうみたいだな。ならば‥‥‥」

「あ〜ら。よく見たら、貴方。魔女じゃない」

 女が、サナの言葉を遮って大声で言った。

「なるほどねぇ。貴方が新しい魔女なの。それで、この国を滅ぼした、と。

 ‥‥‥そろそろだとは思ってたけどね。それにしても、今か〜」

 途中から、小声になったから後半は聞き取れなかったけれど、どうやらサナのことが魔女と分かっているようだった。

『そう言う、お前は?』

悪魔が、女にその正体を、その名を問う。

「そうねぇ〜。わたしの名は、フェーニ。強奪の魔女フェーニよ。

 というわけで、この国。わたしが貰うわ」

強奪の魔女の宣言に、千年呪の魔女は、反抗する。そこに宿るのは強い意志。

「それは、あり得ぬな。ここは、妾の落とした国。早々に立ち去れ」

「ふーん。妾、か。あの人みたい。

‥‥‥‥まあ、いいわ。渡すつもりがないのなら、奪うだけだから」

 サナの意思が曲がらないことを悟ったフェーニは、争うことを覚悟する。

それは、サナも同じこと。

 互いへの敵意を込めて、一国を懸けた魔女同士の戦いが始まった。


『怒れ!雷光の獅子よッ!!』

先手は、サナだった。

呪文と共に顕現したのは、雷をその身に纏った一頭の獅子。

『殺せ』

冷徹なサナの命に従い、獅子が雷の残光を残しながら強奪の魔女に襲い掛かる。

 いかなる距離で会っても、雷光の獅子から逃げることはできない。

刹那のうちに、距離を詰めた獅子が、フェーニにその前脚を叩きつけようとする。

誰もが、あっさりとしたフェーニの死を予測した。けれど、強奪の魔女は、己に死を告げに来た獅子をのんびりと見つめている。

 獅子が前脚を振り下ろそうとしたその瞬間。前脚を振り上げるため、刹那にも満たない隙。でも、それを強奪の魔女は見逃さない。

『来いッ!!!』

たった一言の呪文。

僅かな静寂。

 そして、獅子が前脚をもとに戻した。


「なっ‥‥‥‥」

サナの驚愕の声。あり得ぬものを見たような表情だった。

「これが、私の力よ。

そうね。‥‥‥『喰らいなさい』」

 瞬間、雷光の獅子が、サナを滅ぼそうと駆ける。

「‥‥‥くッ。

焼けッ!千年呪の名のもとにッ!』

雷光の獅子を迎撃するため、サナが灼熱に燃える竜を呼ぶ。

その二つが、轟音と共にぶつかって辺りを崩壊させる。華麗だった王都が、瞬時に廃墟と化すほどの衝撃。


 こうして、再び、王都は戦乱に巻き込まれたのだった。


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