第3話 王宮焦土②
光り輝く槍の穂先と、漆黒の炎がぶつかり、周囲に衝撃をまき散らす。
魔殺しの聖槍を握る王国近衛騎士団長イスベルトは、その整った顔を歪ませた。聖槍にかかる途轍もない圧力。そして、それを介して伝わる魔女の想い。
そのすべてが、燃えているようで、でも。
「‥‥‥これほどか。これが魔女の力、だがっ!私は、私も負けられぬのだっ!
主君のため、国に住むすべての民のために!!!!!」
それが、イスベルトという男の覚悟であり矜持。
サナの纏う魔力が、浄化され消えていく。聖槍の威光、それは、魔力を浄化する聖なる光。
それに照らされて、サナの瞳に光が戻っていく。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥そうか」
すべてを悟ったような声。
サナの瞳にあるのは、理性の光。猛る魔力は、サナを守護するように黒炎となっている。
「‥‥‥‥分かったこともある。だがな」
イスベルトの覚悟と矜持。それを、認めながらも魔女は嗤う。
「妾は、それを認めぬぞっ!
民を守る?ならば、何故妾の家族を殺した?あの村を滅ぼした?異端?そうである確証はあったのか?
その確証もなく、村を焼き滅ぼし。それ故に、いま妾が、千年呪の魔女がここにいる。まさしく自業自得、因果応報というものではないか。自らの行為のために、滅びようとしている。貴様らの生み出した一人の魔女によって。
そもそも、民を守ることが矜持であるのであれば、確証のない理由で民を殺すでないっ!
守るべき民を殺し、そして、そのことによって滅びる。
愚者の国には、相応しい幕切れであるな。
さあ、騎士団長よ。終わらせようではないか。
『妾こそが千年呪。いまここに、妾の名にて命じよう。怨嗟の炎、復讐の火よ。この場にて、汝らの意義を示せッ!!!!』
黒炎が解放される。それは、意思を持つ復讐。蠢く炎は、その存在意義のため王宮を消し炭にせん、と迫る。
魔女の憎しみの炎。それと王宮の間に立ちふさがるのは一人の男。
王国近衛騎士団長、イスベルト・クルハンは、聖槍を掲げる。穂先を天に向け祈る。
「聖なる神の槍よ。いまここに、浄化の威光をッ!!!!」
イスベルトの祈りが伝わったのか、聖槍〈ミリオン〉が今まで以上の光を放つ。
迫る黒炎の表面、聖なる威光に照らされた部分が浄化され、消えていく。けれど、沸き上がる黒炎は止まらない。
「くッ‥‥‥‥」
聖槍の穂先が、黒炎に向けられて、衝突。
「はぁあああああぁああああぁぁあぁぁぁぁああぁぁあああッ!!!!!」
イスベルトが叫んで。
そして、静寂が訪れる。
『‥‥‥‥‥ほう』
その静寂を破ったのは悪魔の呟き。
そこには‥‥‥
‥‥‥漆黒の炎に侵食された王宮の姿があった。
衝突地点と思われる王宮前の広場だったところには、巨大なクレーターがある。
柄の部分で折れた聖槍がクレーターの底に突き刺さっている。聖槍は、黒炎に侵されていた。端の方から次第に灰となって消えていく。
大地に横たわるイスベルトは、すでに骨だけとなり、その骨さえも燃やされていっている。
クレーター内で、唯一サナは立っていた。
けれど、その体は満身創痍。体中に裂傷があり、うっすらと血がにじんでいる。
魔力は、零に等しくて。実際、かろうじて立っているだけであった。
そんなサナは、静かに灰と化していく王宮を眺めている。自らの復讐の終焉、それにどのような思いを宿しているのだろうか。それを知ることは誰にもかなわないだろう。
「ありがとう」
サナが、そう微かに呟いた。
「帰るかの」
千年呪の魔女がそう言ったとき。
突然、空間が歪んだ。
現れたのは、空間の亀裂。直後、空間が割れ、虚空から一人の女が現れる。そして、言い放った。
「この国は、私のものであるッ!」と。
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