第2話 王宮焦土①

「どうなっているのだっ! 騎士たちが全滅だとっ!?」

「そんなバカなっ! 千は揃えたのだぞ!

 それが、こんなあっという間に‥‥‥」

「おいっ! 対魔戦略兵器は、まだかっ!?」

 動揺と絶望に満ちた声が飛び交うのは、王宮、最上階。王座の間。普段は、豪華絢爛な衣装に身を包んだ貴族たちが国政などについて協議した結果を王に報告する場であり、静寂が支配しているようなところなのだが。

 そこはいま、阿鼻叫喚の地獄となりかけていた。圧倒的な力をもつ魔女による攻撃、そして、間近に迫る死。それらに、貴族たちは怯え切っていた。

 だからか、「逃げる」という、魔女と会ったときの対処法を誰も話さなかった。知識としては知っているはずだというのに。

 最も、魔女から逃げるということさえも不可能に等しいのだが。


 千年呪の魔女サナは、宙に浮き王宮を見下ろしながら呟く。

「ここで、終わるのか皆は、こんな奴らに殺されたのか?

 何もしてなかったのか?

 ソンナコトがアッテイいノ!?」

『サナよ、どうし‥‥‥』

 悪魔が、サナの様子を確認し、止まる。

 サナの瞳は、赤かった。くすんだ赤。その瞳に意思の光はない。そして、その美しい黒髪が、どこか禍々しい生き物のように蠢いている。

 それは、前触れもない突然のことだった。


「ア゛ァァァァッ!」

「「「‥‥‥‥ッ!!?!??!?」」」

 突如、辺りに凄まじい衝撃と狂った声、そして、あまりにも膨大なが撒き散らされる。

 その衝撃の中心にいるのは一人の少女だったモノ。

 千年呪の魔女、サナを中心に竜巻のように魔力が渦を巻いている。

 暴れ狂う魔力は、無差別に王都を破壊していく。それは、まさしく天災のよう。

 そこに、他者の意思は介入できない。

 即ち、本人の意思さえも。

 つまり。

『‥‥‥暴走、か。いつかおこるとは思っていたが、今とは』

 悪魔の呟きは、真実を捉えていた。

 これは、ある意味、当然のことでもあった。

 ひとりの少女が、突然、家族を知人を、今までのすべてを失い。そして、膨大な力を持つ魔女となったのだ。いくら才能があるといえど、魔女になったばかり、その力をしっかりと使えるとは限らないのだ。

 そして、遂に限界がきた。

 膨大な魔力と、その憎しみにサナという少女の人格が飲み込まれる。そして、文字通りの天災と化したのだ。

『もう、止まらんな』

 悪魔の諦めの声。

 直後。

「ゔぅぅああぁぁあぁぁぁぁああぁぁぁあぁあぁぁあぁぁぁあぁっ!!!!!!」

 再びのサナの咆哮。

 まき散らされていた魔力がサナに集中していく。魔力で黒衣の上に外套が織られる。さらに、その背には蝙蝠のような翼。額には漆黒でありながらも、水晶のような透明感のある角が一本生える。

 これが、人間を超越した力を持ち、世界に恐怖と災厄をまき散らす魔女の姿。

 そして、魔女と対峙するかのように王宮より一人の男が現れる。

 その右手にあるのは、光り輝く一振の槍。

 男が、堂々と宣言する。

「我は、王国近衛騎士団長イスベリオ・クルハンであるっ!

 魔女に堕ちた娘よ。

 今ここで、対魔戦略兵器がひとつ〈聖槍・ミリオン〉にて、消し滅ぼしてくれよう!!!

 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥いざッ! 勝負!!」

 イスベルトが、〈ミリオン〉を構え、サナに駆けだす。

 対魔戦略兵器。それは、世界に僅かしかない、魔女に対抗するための手段である。

 言わば、魔女の天敵。

 これまでに数多の魔女がその刃の贄となってきたのだろう。

 でも。サナは怖気付かない。

 いや。既にそのような意識などないのかもしれないが。

 魔力の翼を広げ、その手に黒炎を宿したサナが迎撃に天を翔る。


「ハアァぁああぁぁあアあぁあぁあああああッ!!!!!!」

「ゔぉおおおおおおおおおおお!!!!」


 気合いと咆哮が響く。


 そして。

 魔殺しの槍と、世界殺しの黒炎が正面から激突した。


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