第2話 魔女の回想①

 暗闇に閉ざされた洞窟。かつて祖国があり、今は己の居城となった場所で「千年呪の魔女」は、遠い昔、魔女になった時のことを思い返していた。

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 「えっ?」

 魔女になったサナには、"声"が放った言葉の意味がわからなかった。

「そ、それってどういう‥‥‥‥」

『おや、知らなかったのか?

 魔女の力の代償を。魔女の持つ強大すぎる力。そんなものが、なんの犠牲もなく手に入るわけがないだろう?

 君はその力と引き換えに呪われたのだよ、我が母である魔女にな。

 瞬きほどの時間で一国を滅ぼすことが出来るほどの力。君に与えられたのはそういう力だ。その代償は大きくて然るべきだろう?

 君の場合は、千年間この世界を呪い続け、厄災を世に巻き散らすことだ』

 言葉が終わるのと同時に、サナの身体に膨大な力が宿る。

 国の一つや二つごとき一瞬のうちに滅ぼせるほどの力と、全能感。そして、すべてを壊したいという破壊衝動。

 これこそが、魔女の契約。膨大な力と引き換えに、未来永劫とでもいうべき長き間人類の敵であること。

 そのことを、サナは悟る。そして、これから己が歩むであろう魔女の道を。

「‥‥‥そう。それが、私の魔女としての代償。なら、この力。私の思うように‥‥‥」

 サナは静かに、己の運命を思う。

 それに対し、"声"が面白そうに言った。

『ほぉ、君は珍しい反応をするな。

 大概、魔女となった者はこの先の人生に絶望するものなのだがな』

「だって、嘆いても、何も変わらないじゃない。それも、私が、嘆けば、人に戻れるの?」

 "声"は、感心した。そして、期待した。

 もしかすれば、この魔女は、の領域にすら、到達し得るかもしれない。と。

 思考にふける"声"。

「ところで、"声"。あなた、何者なの?」

 すると、"声"は、少し驚いたようにいう。

『おや、多分、君の考えているものだよ』

「なら。って何?」

 しばしの沈黙。それが、"声"の、悪魔の悩みを雄弁に語っている。

「で?」

 サナが急かす。早くしろ、とサナの眼が語っている。

 悪魔が苦笑する気配。

『‥‥‥我ら悪魔は、決して異界の生物などではない。我らは、母である世界呪の魔女に生み出された災厄を起こすもの。世界の必要悪だ』

「必要悪?」

『そう。世界が存続するために必要な悪。人が増えすぎぬように、そして、新たな力を手にするための敵。それが、我らだ』

『ところで、我が魔女よ。敵がきたぞ』


 その言葉と同時、鎧に身を固めた騎士たちが鎧のぶつかる金属音と共に村に入ってきた。恐らくは、あの時、村の民を処刑した騎士たちを、焼き殺した時の炎が見られていたのだろう。

「‥‥‥おい!いたぞ!」

 サナのことを見つけた騎士の一人が、声をあげ仲間にその存在を知らせる。

 騎士たちが、サナに刃を向ける。

「貴様が、この村の魔女か」

 それは、質問ではなく断定。

 刃が煌めく、今にもサナを切り裂かんとするそれを見ていくうち、どうしようもない怒りが、湧いてくる。

 なぜ、なぜ。皆は死ななければならなかった?

 何もしていないのに。

 なぜ、あのように殺されなければならなかった?

 壮絶な痛みの中、皆、どれほど世界を恨んだのだろう。

 なぜ、そんなことになった?‥‥‥それは、それは、!!

 こいつ等が、異端処刑騎士団が、皆を殺したんだ!!!

 こんな奴らさえいなければ‥‥‥!!

 限りのない怒りが、その理不尽に対する憤怒が、力へと変わる。

「貴様らが、貴様らが、皆を殺した!貴様らさえいなければ、皆、笑って暮らせていたのに!!そのはずだったのに!

 貴様らは、わらわが、この「千年呪の魔女」が殺してやる!!!!!!」


 これこそが、「魔女」。世界に破滅をまき散らす災厄の化身。

 そしてそれが、のちに最凶最古の魔女と言われるようになる「千年呪の魔女」。その誕生の瞬間であった。

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