10話 アルストロメリアと時間旅行

「ったく、さっきからうるせえな」


存分に泣き疲れたマリーのまえに一人の少女がたっていた。それは小柄でおよそ幼女とも言える年頃であったが、どこか私に似た顔つきである。


「アマリリスさんよ。勝手に人の世界に来ていながらわめき散らすのは止めてくれませんかね」


その幼女は年相応ではない言葉遣いをする。その幼女は私のことをアマリリスと呼称こしょうする。


「てか、直接会うのは初めてだったか。そのお前のはんし…妹みたいなものだ」


差し出された手は握手を求めてるのだろうか。それとも、あわれな子羊に差し向ける聖女の手であっただろうか。自分の妹と自称するその幼女の小さな手を掴むと、マリーは改めて自己紹介を受ける。


「はじめましてだな、アルストロメリアだ」



その広大なる草原にマリーと幼女がいた。


「勘違いさせてごめんない。私はアマリリスではないの」


誰かを勘違いさせたままにしたせいで、自分が虚構だと判らされたマリーは素直になった。


「私の名はマリー……いや、これも私じゃないのか。私、誰なんだろう?」


「オレに言われても、オレは貴様をアマリリスと記憶している」


その幼女は何かを知っているようだった。マリーは彼女にお願いする。


「ねえ!教えて!私が誰なのかを!」


「もしかして、記憶が無いのか?」


マリーはうつむいた。そして自白したのだった。


「……何も覚えていないわ」


「分かった。貴様が誰なのかオレが教えてやろう」


アルストロメリアはそう言うと《想いの力》を唱えた。


「《世界つむぎ》」


それはマリーが聞いたことのない《想いの力》であった。無限に続く草原が波打つともやになって消えていく。


「…そんな!《完全な世界の顕現》でも消えなかったのに!」


「貴様は何か勘違いをしている。この草原はオレが創った世界、オレが創造した世界なのだよ」


そしてアルストロメリアはこう付け足した。


「オレは時間を渡れるのだよ」


「時間を渡る……?」


アルストロメリアは神であった。正確には半神半人である。アルストロメリアの使う《世界つむぎ》は、不完全な世界を創り時間を創造すると言ったもの。

アルストロメリアは自分の作った時間を渡れるのだ。


「そしてここはアマリリスが王女として生きた時代。貴様はここでアマリリスがどういう人物なのかを知ることができる」


記憶のない少女とアルストロメリアの二人は、人集りの多い場所に立っていた。そこは王女アマリリスの生きた場所。歩いていると広い場所に出た。路地が集中するこの中心に建てられた場所には、噴水がありその中央には石像があった。およそ記憶の失った少女と同形で手には黄金の球体、そして前にはカエルの石像があった。


「あれは密林でみた石像……?なんで……?」


「言ったであろう。ここはアマリリスが王女として生きた時代だと」


辺りを見回すと中世と思われる光景があった。冒険者や騎士、馬で動く荷車にぐるま。そう見ていると騎士と思われる甲冑を着込んだ兵士が近寄ってきた。


「まずい。顔を隠せ」


アルストロメリアがそう言うとマリーは学院の制服につけられたフードを被る。


「失礼。その女は君の連れか?いや、誰かに似ていると思ってな。こんな所にいるはず無いのだが」


「気のせいじゃありませんか?私達、冒険者ですし」


アルストロメリアは何とか言って誤魔化そうとする。外では敬語を使うらしい。騎士はフードで隠した少女の顔を覗こうとしたからマリーはうつむいた。疑問に思いながらも人違いだと理解したらしい。


「冒険者ならギルドはあちらだ」


その騎士はギルド前まで二人を案内すると去っていった。


「………」


「相手は騎士だ。王女を見るくらいは平民より多い。もし貴様の外見が王女のものと同じと気づくと普通の対応はしなかったであろう。どうだ?オレは機転の利いたいい女であろう?」


マリーは黙っていた口をようやく開く。


「……なんで?なんで王女と私の外見が同じなの?それにアマリリスって?マリーって?私はなにを見せられてるの……」


「まあ、慌てるな。取り敢えず中に入ろう」


中へ入ると受付嬢が元気よく挨拶をしてきた。


「冒険者登録のご希望ですか?それとも旅の方ですか?飲食コーナーはあちらでございます」


取り敢えず席に座る。


「しまった!」


アルストロメリアが声をあげる。


「金を持っていなかった」

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