第35話:三国共同作戦
俺はフィルド王国に戻った直後にリンネ姫に事情を話してからアマーリアを連れてワールフィアに向かい、密かにフェリエを連れてベルトラン帝国へと戻っていたのだ。
そしてローカスでアマーリアとフェリエの力を借りてバッタカビの試験を行った。
結果は凄まじいもので、フェリエの増殖させたカビは一日も経たないうちに数千匹のバッタを死へと追いやった。
「ドライアド族と龍人族の合意は既に得ています。彼らも大陸の危機に協力を惜しまないと言ってくれています」
リンネ姫が説明した。
「しかし…そのようなことをしてベルトラン帝国の機嫌を損ねないだろうか…」
「ベルトラン帝国は魔族嫌いの人間至上主義国だ。そのような国が魔族の介入を許すとはとても…」
「そもそも広大な大群に効果があるのだろうか…?」
それでも大臣含め会議に参加している面々は尚も懐疑的だった。
「私はテツヤの案に賛成します」
リンネ姫が立ち上がった。
「このまま蝗害を見届けているだけでは何も変わりません。いえ、それどころか自体は悪くなるばかりです。かつてのミネラシア大戦の動因がなんであったのかご来席の皆さんもご存じのはずです」
「蝗害か…」
苦い顔で呟く農業大臣のルボンにリンネ姫が頷いた。
「ミネラシア大戦も始まりはヒト族の国で起こった大蝗害であったとされています。蝗害によって国力が乏しくなったヒト族の国の間で戦乱が起こり、やがてそれが大陸を二分する戦争になったと。私たちはその轍を踏むわけにはいきません」
「私もリンネの意見に賛成です」
エリオン王子が口を開いた。
「このままベルトラン帝国の弱体化を見過ごすと周辺国家の野心をくすぐることになりかねません。そうなれば我々に火の粉が降りかかるのは陽の目を見るよりも明らかです。確かにベルトラン帝国は人間至上国家ではありますが現王になってからその意識も変わりつつあります。今ならばワールフィアの協力も受け入れるかもしれません」
「確かにベルトランの蝗害に呼応するように周辺国の動きが活発になってきているという報告もありますな。まだ非公式ではありますがベルトランから協力の要請もきております」
フィルド王国軍総大将のブレナン将軍が頷いた。
「しかしそれであるなら尚のこと我が国は国防のみに徹するべきでは?」
「然り。ベルトラン帝国の弱体化は我が国にとって有利に働く面もある。今しばらく情勢を見守ってからでも遅くはないと思いますぞ」
円卓の方々から否定の声が上がる。
「それが…そうのんびりもしていられないんです。蝗はまもなくガルバジアに到達すると言われています。ベルトランはその前に局地壊滅術式を行う方針です」
「なっ…!」
「そ、それは本当なのかね!」
俺の言葉に円卓から驚きの声が上がった。
「本当です」
エリオン王子が頷く。
「既にベルトラン全域から魔導士が招集されています。その数は一万を超える規模です。本当に局地壊滅術式が実行されればベルトラン帝国の魔導展開力は著しく衰えるでしょう。そうなった時に彼の国と魔導協定を結んでいる我が国が無関係を決め込むことは不可能です」
円卓が一気に静まり返る。
「なあ、魔導協定ってなんだ?」
俺は隣にいるアマーリアに囁いた。
「国は要所要所で結界や防壁を張るために魔導士の存在が欠かせないのだ。その力が衰えると敵国の攻撃のみならず魔獣の跳梁を許してしまうからな。そのために各国間で魔導士を融通し合う魔導協定が結ばれることはよくあるのだ」
なるほど、軍事協定みたいなものなのかな。
「我が国とベルトランはそれとは別に軍事協定も結んでいる。仮にベルトランがどこかと戦争になれば我々にも影響が出るだろう」
「テツヤよ」
ウィゼル王がこちらを向いた。
「お主の提案を実行したとして、どれだけの魔族が必要となるのだ?」
「先ほども言った通りこれはドライアドの協力なしでは成り立ちません。仮に完全に協力を得られるのであればこの作戦に従事できるドライアドは約五百名、これだけいれば作戦は実行可能であると考えます」
「五百名?それだけでいいのか?」
「主な効果はカビの方が受け持ってくれますので。むしろそのカビを維持するだけの湿度を維持する方が難しくて、こちらは多ければ多いほど良いです。あと風魔導士も必要です」
俺は円卓の石を操作してベルトランの立体地図を作り上げた。
「蝗は現在真西に進みながらガルバジアに向かっています。なのでガルバジアに流れる川から水路を作って西に向かわせます。同時にフィルド王国の国境沿いにある山からも水を引いて蝗の群れを囲むように運河を作り上げます」
そう言いながら地図に大きな運河を作り上げる。
「その水を利用して水魔導士が領域内の湿度を高め、風魔導士がその湿度を逃がさないように封じ込めます。更に蝗は風に乗って飛ぶので蝗の移動も抑えます。言ってみれば巨大な温室を作るようなものですね」
「そうしたうえで蝗にカビを繁殖させるという訳じゃな」
アディルの言葉に俺は頷いた。
「しかし、肝心の運河作りはどうするのだ?これは国家規模の事業になるのではないか?」
「運河作りは俺が責任をもって行います。もっともベルトラン側の了承を得てからになりますけど」
「ふむ…」
ウィゼル王が唸った。
「アディル卿、あなたはどう思われますかな?これは実現可能だと?」
「そうじゃのう…儂とてこれほどの規模の事業は生まれて初めてじゃ。しかも時間もない。成功するかどうかは五分と五分、と言ったところではないじゃろうか…しかし」
アディルはそう言ってウィゼル王を見てにやりと笑った。
「成功すればシディックの奇跡など及びもつかぬほどの偉業になるであろうな」
「やはりそうですか」
ウィゼル王が笑みを返した。
「良かろう!フィルド王国はこの作戦を全面的に支持し、ベルトラン帝国に提言するものとする!」
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