テナイト村

第4話:山賊に襲われたテナイト村

「私の住むテナイト村はこの道をまっすぐ行ったところです。今からすぐにでないと村に着く前に日が落ちてしまいます」


「それだったら少し急ぐかな。ちょっとごめんよ」


 そう言ってステラを抱え上げた。


「きゃっ。な、何を?」


 慌てるステラだったが、すぐにその驚きは別のことへと移っていった。


 俺が猛スピードで移動を開始したからだ。


 脚は全く動いていないけど体は走る以上の速度、時速六十キロ程度の速さで移動している。


 歩いて半日くらいの距離だったら小一時間で着くだろう。


「テ、テツヤさん?これは一体?」


「ああ、ちょっと土属性の魔法をね」


 正確に言うと足下の土の粒子を高速回転させることで体を移動させているのだ。


 飛び出した小石も事前に地中に沈み込ませて移動のための動輪に利用している。


 やれるかな?と思って試しただけだったけど案外便利かもしれないな。


 道中の人々が驚愕して見守る中、俺たちは滑るようにテナイト村へと向かっていった。




    ◆




 しばらくして俺たちはテナイト村に到着した。


「ふえええ~」


 村に着いて降ろしたステラが目を回したようにふらふらしている。


 こんなに高速で移動したことはないだろうから無理もないか。


「ステラ!あんた今までどこに行ってたんだい!朝から見なかったからみんな心配してたんだよ!」


 ステラの姿を認めて村の女性が近寄ってきた。


「お母さん!」


 そう叫んでステラがその女性にしがみついた。


 どうやらステラの母親らしい。


「私、ラングの町で山賊を退治してくれる冒険者を雇ってきたの!この人はテツヤさん!凄く強いし土魔法も使えるんだよ!」


「馬鹿なことを言って!ラングの町に行ってこの時間に帰ってこれるわけないじゃないの!」


 嬉しそうに説明するステラだったが母親は疑わしそうにステラを抱きかかえて俺を睨んでくる。


 いや、その気持ちもわかるけどね。


 年端も行かない自分の娘がいきなり風体も怪しい男を連れてきたのだ、怪しむなという方が無理だろうな。


「た、大変だあ!山賊が来たぞおおお!」


 その時、俺たちが来た方角の反対側で半鐘が鳴り響いた。


「ステラ、早く隠れるんだよ!」


 母親が血の気の引いた顔でステラを抱えていく。


「テツヤさん!」


 ステラが俺に手を伸ばしてきた。


「任せとけって。そのために俺はここに来たんだからな!」


 俺は親指を立て、村の反対側へ向かって走っていった。




    ◆




 村の裏手に到着すると、そこには既に二十名ほどの山賊が来ていた。


 白昼堂々隠れる様子も悪びれる様子もなく我が物顔で村を練り歩こうとしている。


 村人が畑用のフォークや大鎌を手に立ちはだかっているけど明らかに及び腰だ。



「村長さんよ、この前約束したもんは用意できたのか?」


 ボスと思われる髭面の大男がだみ声でがなり立ててきた。


 身長は二メートル以上あるだろうか、巨大な体躯は人間というよりはまるでオークだ。


 でっぷりと太り、右手にでかい斧を持っている。


 マジでオークそのものだ。



「む、無茶を言わんでくれ。金貨五十枚なんて村中ひっくり返しても出てきはせん!」


 年を取り、痩せこけた村長が嘆願するように答えた。


「おいおい、この前、来週までに必ず金貨五十枚用意するから村を襲わないでくれと言ってきたのはそっちだぜ?男と男の約束を破ろうってのか?」


「あ、ああでも言わんでは、あんたらが儂らの村も畑も焼き尽くすと脅してきたからじゃないか!」


「そんな昔のことは忘れちまったなあ。とにかく、金貨を用意できないってんなら現物で払ってもらうしかねえなあ。例えば女子供とかな」


 山賊のボスはニヤニヤと下卑た笑いを浮かべている。


「最近は子供も高く売れるからな。一人金貨一枚って事にしておいてやるぞ」


「おらおら、寛大なザーク様のご厚意に感謝しろよ!」


 ザークの言葉に山賊たちがゲラゲラと笑う。


「あ、あんたらには血も涙もないのか!同じ人間だってのに、どうしてここまで酷いことができるんだ!」


「こんなド田舎でへばりつくように生きてる奴らがこの俺様と同類だあ?言っていい冗談と悪い冗談があるって知らねえのか、この老いぼれが!」


 そう叫んでザークが村長を蹴り飛ばした。


 村長は枯れ木のように吹っ飛び、地面に這いつくばった。


「見せしめだ。二度と逆らう気なんて起きねえように手足の二、三本折っておいてやらあ」


 そう言ってザークは手に持っていた斧を振り上げた。


「ひいいいっ」


 村長が叫び声をあげる。


 しかし、振り下ろした斧が村長に届くことはなかった。


 俺が生み出した土の壁が村長とザーク間に生え、その斧を止めたからだ。


「なんだあ、こいつは?誰だ!こんなことをしやがったのは!」


 ザークが吠えた。


「俺だよ」


 そう言って俺は前に出た。


 村人は突然現れた俺にきょとんとしている。


「なんだあ、てめえは?」


「この村の人からの依頼でね、あんたらを討伐しに来た」


「てめえが?一人で俺たちをか?正気かよ!」


 俺の言葉にザークが爆笑した。


 山賊たちも笑い転げている。


 俺も笑った。



「いやー、良い冗談だったぜ。気に入った!お前は殺さないでやるからどいてろ」


 目じりから涙をぬぐいながらザークが言った。


 しかし当然どく気はない。


「聞こえなかったのか?俺の機嫌が良いうちにどっかに消えるんだな。それで見逃してやる」


「そっちこそ聞こえなかったのか?俺はあんたらを討伐しに来たんだ。さっさと投降してくれれば痛い目を見ることもないしこっちも無駄な労力を使わないで済むからそうしてくれないか?」


 俺の言葉にザークの顔がみるみる険しくなる。


「前言撤回だ。てめえは一番先に死んでおけ」


 言うなり左手を大きくあげた。


「おら!火炎球ファイアボールだ!」


 ザークの詠唱と共に差し上げた手のひらの上に巨大な火炎が生まれ、それを投げつけてきた。


 俺の周囲が一瞬で炎に包まれる。


「出た!ザーク様の火炎球!炭も残らずに燃え尽きたぞ!」


「馬鹿が!ザーク様に逆らうからこうなるんだ!」


「見ろよ!立ったまま灰になってやがるぜ!」


 山賊たちが口々に囃し立てている。


 しかし山賊たちの言葉は俺の耳にしっかり届いている。


 つまり俺は全くの無傷だということだ。


 それはザークが火炎球を撃ちだす直前に全身を土で覆っていたからだ。


 土の断熱性能は別に高いわけではないけどこの程度の火炎球だったらなんなく防ぐことができる。


 土の鎧を取り去った時、俺は全くの無傷だった。

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