二章~新たな風~

不死なる少年【1】

 世界改変により、地上に魔物が蔓延はびこる様になって人類はその数を大幅に減らした。

 だが、その前に発信された情報により、人類は対抗手段を手に入れた。

 とは言え、それは万全と言える物ではなかった。


 そして…その立役者となった少年の一人が忽然と姿を消し、ダンジョンの攻略が始まった。

 自称:神を名乗る者…マルマッタの言葉通り、ダンジョンからは色々な物がドロップする様になった。

 その事も引き金となって、ダンジョン攻略は生きていく上で欠かせない物となる。


 そんなある日、ダンジョン攻略組が下層への階段を見付けたのだ。

 それにより、各々、色々な思惑はあるが、人類は更なる資源を求めて攻略を開始するのだった…。


 ○●○●○


<side:???>


「よし、準備はコレくらいで問題はないかな…。

 あとは…おっと、肝心な物を忘れる所だった!

 危ない危ない…コイツを忘れたら何の為に地上へ出るのか分からなくなる所だったよ。」


 その少年は慌てて、置いてある機械を背負い鞄リュックに詰め込むと、今度こそ忘れ物が無いか再度確認をした。


 電気が無くなった世界にありながら、四方を壁に囲まれ一切の光を通す事のない作りとなっている部屋…にも関わらず、その部屋は明るかった。

 その部屋はどう言う理屈か分からないが、依然と変わらないほどの光量を確保していたのだ。


 そんな中、一人の少年…いや、少年と言うには幼さが残り過ぎている…。

 よく見れば、小学生にすらなってないであろう外見だったりするのだが…。


 にもかかわらず、その少年はその身体に似合わない外套がいとう(ローブ)を羽織り、その背中には大きな背負い鞄リュックと二振りのショートソードを手にしていた。


「さて、思ったより時間が掛かり過ぎちゃったからな…必ず戻ると言った手前、早く戻らないとアイツ等、五月蠅うるさいだろうな…。」


 少年はそう呟くと、目の前にあるとてつもなく大きな水晶に目を向ける。


「そじゃ、いってきます!」


 その瞬間、四方を壁に囲まれた部屋から姿を消す。


 光すら入り込まない出入り口の無いその部屋から、どうやって出たのか誰も分からないが、その少年は確かにその部屋から姿を消したのだった…。


 ○●○●○


<side:的場>


「た、大変です!ダ、ダンジョンに少年が入り込んでいましたッ!!」


 『ガチャリ!』と勢いよく部屋のドアが開かれたと思うと、入り込んできた男は大きな声で叫んだ。


「な、なんだとッ!?警備の者は何をしていたッ!」


 俺はノックもせずに入り込んできた無礼な行為も緊急事態だと言う事で、無視して男に問い詰めた。


「そ、それが…実は、誰もその少年を見た事がないんですッ!」

「な、な、なんだって~~~ッ!?」


 俺が、その報告を聞いて驚くのは無理もない。

 そもそも世界改変が起こって、既に5年と言う月日が流れている。


 そんな中で、他の村や町と言った様な大小様々な集落に足を運ぶだけでも命懸けののとなっているからだ。

 何せ、その数を減らしたとは言っても、集落を守る為にそびえ立つ壁の外には、まだ数多くの魔物が住んでいる。


 今現在、何とか村と呼べる規模の壁を建設した事により、魔物から身を守り生活するだけのスペースを無事に確保する事が出来たとは言え、それは集落を守る事が出来ただけと言える。

 その為、今も魔物がうろつく壁の外を…他の村や町へ向かうだけでも命懸けなのだ。


 つまり…そんな中、見ず知らずの少年がダンジョンにいたと言う事は、言い換えるなら、その少年が他の村や町から命懸けでやってきたと言う事であり、更には、ダンジョンを警備する者達の目を盗みダンジョンに侵入した事になるのだ。


 そもそもな話…先程も言ったが移動するだけでも命懸けなのだ。

 そして、普通に生活するだけでも、ダンジョンに潜り食材などのドロップを手に入れないといけないのが現状…。

 だが、世界改変から5年と言う歳月の中で、その危険な行為により僅かに生き残った人達は、物資回収の際に、更に何人も死んでいったのである。


「そ、それで…その少年は?」


 俺は見知らぬ少年の発見にショックを覚えつつも、伝令の男に少年の行方を尋ねた。


「ハッ!今は、待合室で待機させています!」

「そうか…ご苦労、今すぐ向かうとしよう!」

「あ、あの…。」

「ん?まだ、何かあるのか?」

「その少年が言うには『的場に合わせろ!もしくは真弓さんに!』との言っているそうなのですが、この的場と言うのは、もしや…。」

「あぁ、おそらく俺の事だろう…それに、真弓さん…か。

 すまないが、真弓にも待合室に来る様に伝えて貰って良いか?」

「はい、了解しました。」


 俺と真弓を知る人物でありながら他の者が知らない人物…心当たり…と、聞かれたら一人だけある。

 と言うか、一人しかいないと言った方が正解か?


 が、彼と別れて5年が過ぎている…しかも、当時、彼は大怪我を負っていた。

 そんな中、誰にも見付からず5年もの歳月を、生き残れるのだろうか?

 正直な話、3年が過ぎた頃、俺も真弓も結婚を機に、アイツを探す事を諦めた…その為、今ではこの村を指揮する立場にあるのだが…。


 何はともあれ、伝令の男のその返事に、俺は首肯しゅこうすると少年が待つ待合室へと向かう。


 この村で誰も知らず、俺と真弓の名を知る人物…果たして、この選択が凶と出るか吉と出るか…。

 俺は新たなトラブルの予感に、溜息を付くのだった…。

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