世界改変【9】

<side:的場>


「アレがこの化け物共を引き連れているボス…オーガだッ!」


 竜崎が今まで戦っていた相手の名前を言う…もっとも、正確には種族名なのだが…。

 とは言え、今の状況下では、それは些細な問題である。


「で、でかい…。」


 それもそのはず、食人鬼とも呼ばれる呼ばれる怪物は、日本で言う所の『鬼』である。

 有名な所ではお伽話の桃太郎で出てくる様な鬼が有名な話であろう。


「ね、ねぇ…アレって3mはあるよね?」

「いや、4mあるんじゃないか?」


 実際には3mを少し上回った程しかないのだが、その身体から発せられている覇気により、その身体は一回りも二回りも大きく見えていた。


「二人とも、油断するなよ!

 僕達が今まで倒してきた雑魚とは違い、さっきも言ったがボス級クラスだからな?」


 竜崎が俺達に発破を掛ける。

 そして、今まで倒してきた怪物を雑魚と言い放った竜崎の表情からも、このオーガと呼ばれた怪物の強さが窺い知れる。


「お、おぅ!」

「は、はいッ!」


 それは、真弓も同じ様で、ガチガチとまで言わないが緊張で身体の動きが硬くなっていた。


「それはそうと竜崎…どうやって倒すんだ?」

「僕が囮になる…そんでもって真弓さんは援護を頼む!」


 そう言うと竜崎は、再びオーガに向かって走り出してしまった。


「ちょっと待て、竜崎ッ!俺はッ!?」

「野球バカは僕が作った隙に全力で攻撃しろ!

 お前が攻撃者アタッカーだッ!!」


 竜崎がそう叫ぶと、今までにも何度か見ていた現象ではあるが竜崎の身体がブレる。

 すると、いつの間に移動したのか竜崎はオーガの背後に回り込んでおり、ホームセンターから拝借した鉈でオーガの背中を切りつける。


『ガガガ…。』


 どう聞いても生き物へ斬り付けている様な音ではない。

 まるで丸太か何か硬い物を斬り付けている様な音である。

 しかも、碌に刃が通っていない様で、竜崎の攻撃を受けていたオーガはケロリとしているではないか…。


「クソッ!やはり、こんな安物の鉈じゃ碌に傷も与えられないか…。」


 とは言え、幾らダメージが与えられなくても敵愾心敵愾心:ヘイトを稼ぐ事は出来る。

 ちなみに、ヘイトとは嫌悪とか言う意味ではあるが、RPGとかでは敵のターゲットを指す事が多い。

 コレにより、竜崎は有言実行…見事、囮となる事が出来た。


「真弓さん、援護をッ!的場、タイミング間違えんなよッ!!」


『パシュッ!パシュッ!』


 立て続けに、真弓から矢が放たれる。


『バシッ!プスッ!』




 2本放たれた矢…その内一本は角度が悪かった様で当たりはする物の弾かれてしまう。

 だが、もう一本の矢は見事、オーガの右肩に刺さり、オーガの動きを、ほんの少しではあるが動きに支障を与える。


「真弓さん、ナイス!」


 竜崎はそう言うと、その僅かな隙を突いてオーガの右腕に連続で斬り付ける。


「GUROOOOOooooOO!」


 掠り傷…とは言わないが、オーガの右腕に無数の浅い傷が複数出来る。


「うおぉぉぉぉぉぉ!」


 俺は雄叫びを上げつつ、オーガへと攻撃を使用とする的場…だが、そんなのはお見通しとばかりに左腕を振り抜くオーガ…。


「的場ッ!?」


 やられる!と思った瞬間、再度、竜崎の身体がブレる。


『バキャンッ!…ドカッ!』


 一瞬の内に的場とオーガの間に割り込んだ竜崎が、二つの鉈を盾にして的場を守った。

 だが、その代償は大きく、鉈は二本とも粉々に砕け散り竜崎の右手の骨も砕けた。

 更に、左手も皹が入ったのかまともに動かせない状態に追い込まれた。


 そして、そのまま5m程吹き飛ばされてしまう。


 しかし…その代償もあってか、俺は無傷でありオーガの左手からはポタポタと、青い血が流れ落ちていた。


「竜崎ッ!!」


 我に返った的場が竜崎の元へと駆け寄る。


「す、すまない、竜崎…お、俺が…。」

「だから、タイミングを間違えるなと言ったんだ、野球バカ…。

 それと…僕達は今まで何体も化け物を倒している…そのお陰で僕達のレベルは上がった。」

「竜崎、お前何言ってんだ?」

「いいから黙って聞けッ!!」

「わ、分かった…そ、それで?」


 重傷と言っても過言ではない竜崎の、気迫に押され、逆らう事が出来なくなる。


「レベルが上がった事により、僕達の中に新たな力が芽生えている。

 的場はそれを理解しろ!そして、その力を剣に乗せて思い切りオーガにぶつけるんだ…良いな?」

「あ、あぁ…だけど、あんな化け物を相手に、斬り付けるだけの隙なんて…。」

「安心しろ…その隙は、僕が作る!」

「だ、だけど、お前、その身体じゃ…。」

「クックックッ…この僕が囮をするんだ、必ず成功するさ。

 それに、真弓さんを守れるのはお前だけだ…頼んだぜ、英雄ヒーローさんよ!」


 そう、俺の下の名前は英雄ひでおである。

 だけど、野球部のキャプテンであり4番バッターだった為、『英雄』の文字から、仲の良い友人からは、ヒーローと言うあだ名を付けられていたのだ。

 だが、今まで竜崎からは野球バカとは言われても、ヒーローと呼ばれた事は呼ばれた事は一度もない。


「まさか、お前…死ぬ気じゃないだろうな?」


 何となく、嫌な予感がして、そんな事を聞いてしまった。


「はぁ?何、野球バカが馬鹿な事言ってんだ?

 僕には、まだまだやる事がいっぱいあるんだ…こんな所で死ぬ訳にはいかないんだよ!」


 そう言うと竜崎は、傷だらけの身体に活を入れると、ゆっくりとではあるが立ち上がった。


「的場…さっきも言ったが自分の身体の中にある新しい力を感じろ。

 そんでもって、溜めに溜めて、あのオーガに、一気にぶつけろ!

 お前なら出来る…そして、真弓さんを助けるんだッ!」


 竜崎はそれだけ言うと、振り返らずにオーガへと駆け出すのだった…。

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