世界改変【8】
<side:真弓>
『パシュッ!パシュッ!パシュッ!』
一発必中と言うべきか、百発百中と言うべきか…私の弓から放たれた矢は、寸分違わずに化け物達の眉間を貫き、黒い霧へとその姿を変化させていく。
更に言うなら、その射撃の効率を上げる為に、近くにいた消防署の役員さんが私に矢を渡す作業を担う事により、屋を準備する手間が省け、私はまるで砲台にでもなったかの様に、化け物を葬り去っていく事が出来た。
「お嬢さん、まだ大丈夫ですか?」
「えぇ…何だか、身体の奥からドンドン力が湧き出てくる感じで、そんなに疲れないのよ。」
私に矢を渡してくれている消防署の役員さんが、先程から化け物を倒しまくっている私にそっと声を掛ける。
それもそうだろう、何せ、自分達が防戦一方だった化け物を、学生服を着た少女が弓矢で葬り去っているのだ。
それでも、人間である以上、体力や集中力には限りがある。
だが、そんな消防署の役員さんの懸念に対して、私は、むしろ力が溢れてくると言うのだから役員さんは苦笑するしかない。
とは言え、そんな会話の間にも『パシュッ!』と言う音と共に矢は放たれる。
「お嬢さん、もう矢が残り5本です!」
「そうですか…役員さん、後ろの方にケースがあるの分かりますか?」
「ケース…ですか?」
役員さんは後ろを振り返る…すると後方5m位の所に確かにケースが転がっている。
「は、はい、あります!」
「では、私に残りの矢を渡して取ってきて下さい!」
「り、了解です!」
私は、職員さんから残りの矢を全部受け取ると身体を上手く使い倒れない様に固定すると、更に矢を番ってから放つ。
また1体の化け物が黒い霧へとその姿を変えた。
「残り4本ッ!!」
私はそう叫ぶと。極力時間が稼げるであろう次の敵を探す。
何故なら、役員さんに取ってきて貰おうとしたケースには竜崎君が置いていったアーチェリーの弓と矢が入っているのだ。
とは言え、ケースから取り出したら直ぐに使える物でもない。
それらを使えるようにする為の時間を稼ぐ為にも、狙う敵を選択する必要が出てくるのだ。
「あはは…これじゃ、わざわざ竜崎君が放った矢を回収していた理由が分かるわ。
こんなに化け物が居たら、矢なんて直ぐに無くなっちゃうわね…。」
正直な話、竜崎君が弓道場で使われている矢を全部持ってくると言い出した時には、私はそんなに必要とは思わなかった。
何せ、100本以上ある矢を持ち運ぶとなると、当然ならが重量が
そうなれば、必然的に歩みが遅くなるし危険が増す。
そう思っていたが…それでも今は、竜崎君が正しかった事をかみ締めていた。
「お嬢さん、持ってきましたッ!」
役員さんが後方に置いてあったケースを真弓の足下へ置く。
「ありがとうございます!
えっと…ついでにケースを開けて貰って良いです…かッ!」
真弓は役員さんにお願いしながら残り2本となった矢の内の1本を放つ。
「あ、開けました!次はどうしたらいいですか?」
真弓はその声を聞いてケースを見る。
すると其処には綺麗に収納されていたアーチェリーの弓…それから、矢が10本入っていた。
「えッ!?後、10本しかない入ってないのッ!?」
私が驚くのは無理もない。
この消防署へ来るまでにも何本も消費しているし、消防署に着いてからの防衛でも大量に使い、残りの矢は1本。
それでも、予備として竜崎君が置いていったアーチェリーだ、僅か10本しか入ってないとは予想外だった。
使った矢を回収しながら来たのに、10本しか残っていない?
そんな事があるのだろうか?
だが、今はそれでも、無いよりはマシ…そう考え直し真弓は残り1本となった矢を放つ…。
「は、外れたッ!?」
矢が10本しかない事に動揺したのか、今まで確実に化け物を倒してきた矢は、化け物に刺さる事無く、何処かへ飛んでいってしまった。
その事が更なる動揺を生み、私の手が震えだした。
こうなると、自分の意思では留められない…そう思った時、救世主が現れた。
「ゴメン!真弓、おそくなったッ!!」
私は声のした方へと視線を向ける…すると、其処には私の思い人でもある野球バカ事、的場君…『
的場君の姿を確認出来たその瞬間、安堵と共に私の震えは止まった…。
「的場君、遅いよッ!でも、無事だったのね?」
「あぁ…危ない所だったが、竜崎に助けられた!」
「そうだったんだ…それで、竜崎君は?」
「それが…分からん…何かやる事があると言って、一人で何処かに走っていった…。」
「そ、そんな、竜崎君…どうして?どうして止めなかったの?的場君ッ!!」
的場君を
「し、仕方がないだろッ!竜崎のヤツ、真弓が危ないから消防署に戻れって言ったんだから!
俺だって止めたかったさッ!だけど、俺には竜崎よりも真弓の方が大事だったんだッ!!」
「「………。」」
その言葉を聞いて、私は何も言えなくなってしまう。
そして、的場君も自分の言葉に頬を染め、同様に黙ってしまった…。
そんな二人に暫しbの間、沈黙が訪れる…だが、そんな沈黙も長くは続かない。
「GYAAAAA!」
化け物の咆吼…それだけで自分達の置かれている状況を思い出された。
「そうだ、真弓…竜崎から、コレを預かってたんだ…。」
そう言って、的場が背中に担いでいた筒を真弓に渡す。
そこには、先程まで真弓が放っていた矢が50本近く入っていた。
「ありがとう、コレで私もまだ戦える!」
「そうか…だったら、真弓は援護を頼む!
そんでもって、俺が必ず真弓を守ってみせるッ!!」
そう的場君が叫んだ瞬間、二人の横を黒い物体が通り過ぎる。
何事かと二人は飛んできた物に目を向けると、黒い物体は、ゆっくりと起き上がる。
「り、竜崎君ッ!?」
「竜崎ッ!?」
そう…飛んできた黒い物体は何と竜崎君だったのだ。
「やぁ、的場…こんな時に告白かい?…ゴフッ!」
そう軽口を叩く竜崎だったが、内蔵を傷付けたのか吐血する。
「んな事言ってる場合か竜崎ッ!大丈夫なのか?」
「あ、あぁ…ちょっと回避を
一応、自分から後ろに飛んだから、ダメージは微々たる物だよ…。
それより気を付けろ…来るぞッ!!」
口から血を吐き出す程のダメージを、微々たる物…なんて言われても信じられるはずはない。
だが、そんな事を心配させてくれるほど、現実は甘くなかった。
『ズシン、ズシン…ズシン、ズシン…。』
少しずつではあるが、近付いてくる巨大な化け物…。
当然ながら、その姿が全員の目に留まる事となる。
「アレが、この化け物共を引き連れているボス…オーガだッ!」
今まで自分が戦っていた相手…そして、この危機的状況を覆す事が出来る可能性…その正体を竜崎君が叫んだのだった。
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