世界改変【7】

<side:真弓>


 やっとの思いで辿り着いた指定の避難場所…そこは、まだ遠くとは言え肉眼でハッキリと見える距離ではあるが、周囲を壁に囲まれている消防署が見えた。

 だが、そんな私達の目に映る物は、絶望的な光景が映し出される事になる。


 何故なら…今まさに化け物達に蹂躙されようとしている瞬間だったからだ…。


『きゃーーーー!』

『うわぁーーー!』

『警察はどうしたッ!』

『クソッ!自衛隊はまだかッ!?まだ来ないのか!』


 目に見える距離まで来たとは言え、其処への道は未だ遠く、直ぐに助けにはいる事は出来ない。

 逃げ惑う人々、だが、そんな中でも必死に人々を守ろうとする軍団が居た。

 そう、避難場所になっていた消防署の職員達である。


「放水開始ッ!!絶対に化け物共を中に入れるんじゃないぞッ!」


 リーダー格の男の声に、団員達が放水を始める。

 当然、ダメージこそ入らないが、その水圧に押し負けた化け物達が押し返される。

 とは言え、多勢に無勢…悲しい事に、どうしても死角となる場所が出来る。


 どれか一点を狙うと、それ以外の化け物が押し寄せてくる。

 段々と近付いてくる化け物達…消防署の職員達に、絶望の色が見え始めた…。


 そんな放水の死角を縫って、消防署の中に入ろうとしていた化け物…その一体に、異変が起きる。


 それは、的場君がボロボロになってお役御免を言い渡されていた金属バットを思い切り振りかぶって投げたからである。


「消し飛べーーーーー!」


『ヒュンヒュンヒュン…ドカッ!』


 流石、野球部キャプテンと言った所か…投げた金属バットは狙いを外さず、見事に命中。


『ボシュッ!』


 っと、音を立て、そのまま化け物を黒い霧へと変えた。


「よっしゃーーーッ!!」

「え~っと…ストライクって言うんだっけ?」

「真弓さん…この場合、むしろデッドボールじゃないかな?金属バットだけど…。」

「どっちでも良いだろ、そんな事…要は化け物を倒せれば良いんだよ、倒せれば!」


 的場君はそう言うと、手にした剣を振り上げると近くの化け物へと攻撃を開始する。


「仕方がない…真弓さん、援護しますので真弓さんは消防署の中に!」

「えッ!?竜崎君は?」

「僕は真弓さんが消防署の中に入ったら、どっかの野球バカのフォローに向かいます!

 なので、真弓さんは急いで消防署の中へ!」


 竜崎君はそう言うとアーチェリーの弓を構え、矢を三本同時につがえると、そのまま放つ。

 放たれる矢は、各々が違う場所へと飛んでいき、化け物共の頭へと刺さる。

 その威力は、先程、的場君が投げた金属バットよりも絶大で、攻撃の対象になった化け物だけではなく、その後ろにいた化け物の頭部をも吹き飛ばし黒い霧へと姿を変えた。


「今です、真弓さんッ!!」

「は、はいッ!!」


 竜崎君に言われ、私は消防署の入り口へと走り出す。

 そんな私の少し後方を、竜崎君は右へ左へと動きながらも次々に化け物へと矢を撃ち込み、無事に私を消防署の中へと招き入れる事に成功する。


「では、僕はあいつを助けに行きます。

 真弓さんは、このまま弓で撹乱かくらんを…矢が切れたら、薙刀なぎなたで応戦して下さい。

 それから、僕の弓も置いていきますので使って下さいッ!」


 竜崎君はそう言うと、今まで使っていたアーチェリーの弓と矢を私に渡してくる。

 しかも、あれほど化け物を倒すのに放っていたはずの矢は、全然減ってない様に見える。


「竜崎君、何でこんなに矢が残ってるの?」

「何でって…ちゃんと回収していたからですよ?」

「え?え?えッ!?」


 私が驚くのは無理もない…何せ、学校から此処まで常に一緒に行動していたのだ。

 と、言う事は…多少、目を離す事はあったが常に的場君や竜崎君を見ていた事になる。

 だけど、私は竜崎君が矢を回収しに向かった所を見ていないのだ。


「そんな些細な事よりも真弓さん!

 僕は野球バカを助けに行きますので援護頼みましたよ?」

「は、はい、分かりました!竜崎君も気を付けて下さいね?」

「えぇ…野球バカと違い、僕は一人でも大丈夫ですから…。」


 竜崎君は苦笑すると、そのまま私に背を向ける。


「真弓さん、貴方の思い人は必ず助けます…なので、誤射だけはしないで下さいね?」

「竜崎君!?な、な、何言ってるのかな?何言ってるのかな?」

「ハハハ、冗談ですよ冗談…では!」


 これから死地に向かうとは思えない…まるで近所のコンビニにでも向かう様な軽いノリで竜崎君は私に別れを告げる。

 そして…その姿はブレたかと思った瞬間、少し離れた所にいた化け物が黒い霧となって消滅えた。

 更に、その場所から少し離れた場所では、両手に鉈を持った双剣のスタイルで化け物へ斬り掛かっている竜崎君の姿があった。


「こ、こうしちゃ居られない!私だって二人を守るんだからッ!」


 私はそう言うと、自分の持っていた弓に矢を番える。


「竜崎君、援護始めますから当たらないで下さいねッ!!」


 私はそう叫ぶと、竜崎君の側にいる化け物へと矢を放つ。

 次の瞬間、矢は凄い勢いで飛んでいき、化け物の眉間に刺さり黒い霧へと姿を変える。


「ふぅ~、まずは一匹!」


 こうして絶望しかなかった消防署の中に、微かな希望が出始めたのだった…。

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