世界改変【2】

「竜崎君、これで全部だよ!」

「竜崎、こっちもこれで終わりだッ!!

 …って、お前、さっきから何やってんだ?」


 それもそのはず、家庭科室に飛び込んだ竜崎は教室のカーテンをおもむろろに引き千切ちぎると、ハサミで切り裂き始めたのだ。


「クックックッ…よもや、直ぐ側で見ているにも関わらず、分からぬとは何と愚かな男め…。」

「竜崎君、それって…裁断してるんだよね?

 でも、何を作ってるの?」

「あ、その~…コレはリュックとローブですよ?」


 的場に対して悪の科学者みたいな口調だったのはやはり厨二病と言った所なのだろう。

 だが、真弓に聞かれて素が出ると言う事は症状が軽いだろうか?


「え?リュックと?」


「いえ、ロープではなく外套ローブ…です。」

「あ…ローブなのね…でも、そんなのどうするの?」


 いつ怪物に襲われるか分からない危険な状態なのに、逃げもせずに、そんな物を用意する竜崎に、真弓は疑問に思った事を無遠慮に聞いてくる。


「それはですね…色々と手に入れた武器やらを持ち運ぶのに最適だからですよ?

 それに…が生き残ってるとは考えられませんからね…。

 その為の準備でもありますね。」

「…ごめんなさい、ちょっと何言ってるか分かんない…。」

「え~っと…敵は化け物以外にもいる…と、思ってくれたら大丈夫です。」

「おい、竜崎…それって、まさか…。」


 どうやら、真弓は気が付かなかったが、的場は思い付いた様だ。


「ほぅ…野球バカの癖に、貴様が気が付くとはな…。」

「いや、そのキャラはもう良いから…って、事は何か?

 その万が一に備えてるって事で良いんだよな?」

「チッ!…えぇ、そうですね…残念ながら、どうやら被害は此処だけじゃない様ですし…。

 おそらくは自衛隊も動いているでしょうから、避難場所まで逃げれば問題はないと思うんですが…。」

「ん?その言い方だと何か気になる事でもあるのか?」

「いえ…残念ながら、まだ推測でしかないので今はまだ言えません…。

 ただ、もしも推測が正しければ、自衛隊ではあの化け物を止める事が出来ないかと…。」


 竜崎の言葉に真弓の顔が青ざめる。


「そ、そんな…それじゃ~私達、こんな所で死んじゃうの?」


 その真弓の言葉に、竜崎は大した事でも無い様な口調で答える。


「まぁ、その可能性は決して低くはないでしょうけど…そうならない為の準備を、今してる訳ですから、それほど気にしなくて良いですよ?

 あ、そうそう…この作業が終わったら、次はホームセンターへ行きますので、お付き合い宜しくお願いしますね?」

本気マジかッ!?」

「えぇ、マジです…それとも何ですか?

 的場は真弓さんを化け物の餌にしたいのですか?」

「ふ・ざ・け・ん・なッ!!

 真弓は、死んでも守るッ!」

「だそうですよ、真弓さん?」

「的場君…。」


 死んでも守ると言われ、真弓は頬を赤く染める。


「真弓…。」


 そんな二人の世界を展開させようとする的場に対し、竜崎はと言うと…。


「ふぅ…これだから野球バカは…。」

「オイ、コラッ!さっきから黙って聞いてりゃ、野球バカ、野球バカって何度も言いやがって…何か、文句あるのか?」

「文句があるから、野球バカと言ってるんですよ!

 真弓さんを命懸けで守って貴方が死んだら、真弓さんは一生、その事を背負うんですよ?

 ですから、そこは死んでも守るのではなく『』が正解です!」

「竜崎君ッ!?」


 的場と真弓の顔が赤く染まる。

 だが、次の瞬間…二人は『ハッ!』とした顔で竜崎を見る。


「な、なぁ…今、お前…今、二人でって言ったよな?

 なんで、そこにお前が含まれていないんだ?」

「ま、まさか…竜崎君、死ぬつもりじゃないよね?」

「いえいえ、それはありません。

 ただ…僕は二人を避難場所に送ったら別行動を取らさせて頂くだけです。」

「はぁ!?お前、何言ってんだよッ!」

「そ、そうよ!そんな事したら竜崎君、死んじゃうよ?」

「あぁ、それは大丈夫ですよ…むしろ、僕だけの方が生き残れる確率が何倍も高くなると思いますよ?」

「んな事あるか!だいたい、一人で何が出来るってんだッ!!」


 竜崎の態度にイラ付いた的場が胸ぐらを掴もうと手を伸ばす。

 が、その手は空を掴むだけに終わった。


「的場…何処を見てるんですか?」

「なッ!?いつの間に!」

「嘘ッ!?どうやって?」


 竜崎は確かに彼等の目の前にいた。

 だが、的場が竜崎の胸ぐらを掴もうとした瞬間…何と竜崎の姿は消え、彼等の後方5m程後ろに立っていたのだ。


「どうです?僕一人なら、何とでも成るんですよ?

 だから、枷となる二人を避難場所にお届けしたら一人で行動するんです。

 どうです?流石に野球バカな貴方でも理解出来ましたよね?」

「あ、あぁ…。」

「え、えぇ…。」


 あまりの実力差に、戸惑う二人…それはそうだろう、何せ、同級生の友達が、いきなり人間離れした動きを見せたのだから…。


「と、言う訳で…直ぐに準備を終えますから、二人は引き続き周囲の警戒をお願いしますね?

 ちなみに、この後向かうホームセンターでは武器だけじゃなく、防具も手に入れるつもりですので、よろしくお願いします。」


 竜崎はそれだけ言うと、黙々と作業に取り掛かるのだった…。

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