第35話 ワガママに愛して (最終話)
翌朝。
下に降りてきた真希に、5人の弟たちは、「おはよー」といつもどおり挨拶をした。
彼らの言い方はいつもより親しみがあって、私を「家族の一員として認めてる」と言ってくれたような気が、真希にはした。
今、真希が着ている部屋着は、彼女がいつも着ているものだ。
真希が寝ている間に、頼雅が彼女の部屋から持ってきてくれていた。
というか、頼雅は真希の持ち物すべてを、彼の部屋に運び終えていた。
頼雅さんのシャツを着たいなと、ちょっとだけ思ったんだけど・・・。
「あいつらにおまえのエロい姿を見せたくない」と頼雅さんに言われてしまった。
だったら寝る前、頼雅さんの部屋で、彼と二人っきりのときに着ようっと。
それまでのお楽しみ―――。
「で?結婚するの?」
武臣が直球質問を投げた。
真っ赤になって下を見た真希を、頼雅は抱き寄せながら、「あたり前だろ」と言いきった。
「やったぁ!真希さん、ここにいてくれるんだ!」
「結婚してもここにいるとは限らないだろ」
息吹はクールに分析する。
「えっと、私、ここで暮らすよ。もしみんながよければだけど・・・」と真希が遠慮がちに言うと、5人の弟たちは、「さんせーい!」とそろって言った。
「よかったあ。これで俺たちも恋愛解禁だな」
「ん?それどういう意味?栄二くん」
「長男の頼雅が生涯をともにする相手を見つけたことで、俺たちにも縁が回ってくるってこと」
「それ本当?!」
「ホントだよ。頼人のところだってそうじゃん」
「え!そうなの?」
確か、彼らのいとこの頼人さんは、3ヶ月ほど前からめいさんとつき合いだして、もう婚約したんだっけ。
そして彼らの末の妹の日和ちゃんも、最近「彼氏ができた」って言ってたし、頼友さんにも相手がいる。
「じゃあ、頼人さんがめいさんと出会った後で、日和ちゃんや頼友さんも出会いがめぐってきたの?」
「そーだよ。たぶん十和にも出会いがきてると思う」
「・・・すごいね」としか、真希はコメントができなかった。
「でもうちはちょっと違うんじゃね?」
「まーなー。俺たちにはもう相手いるし」
「新くんの相手って誰?」
すごく興味あるんですけど!
「可愛い女子だよ。後はナ・イ・ショ」
「そう・・・」
残念。だけど無理に聞きたいとは思わないし。
「そのうち会えるって」
「そうです、ね」
「あー、その丁寧語、もうやめようねー。お
「そっそれもやめてくだ・・・やめてね」
「そーそー。その調子♪」
真希はニコッと微笑むと、「違うってどう違うの?」と気になっていたことを聞いた。
「頼雅が真希さんに出会う前から、俺たち3人には、もう決まった女がいるってこと」と言った新は、息吹と誠を指差した。
「こう見えて、みんな一途だもんなあ」
「誠は5歳のときから”雪ちゃんと結婚する!”って言ってるし」
「うそっ!そんなに前から、雪ちゃんと知りあいだったの?」
「うん・・・でも雪ちゃんは俺のこと、全然そういう風には見てないから」
いや、違う!
スーパーで偶然会ったあのとき、私は確かに感じた。
彼らの間に結ばれた「赤い糸」を――。
「大丈夫だって。雪ちゃんもこの家に住むことになるよ、きっと」と真希は言って、誠をギュウッと抱きしめた。
「ずるいぞ、誠!」
「誠、真希から離れろ」
「ちょっと頼雅!真希さんから抱きついてきたんだぞ!もう少しくらい・・・」
「ダメ。却下ー」
頼雅は無情に誠から真希を引き剥がすと、誰のところにも行かせないよう、そのまま真希を後ろから抱きしめていた。
「頼雅、イチャイチャしすぎー」
「全解っ!」
「だから栄二は、アニメキャラになるなって!」
「あ、栄二くんには決まった子はいないの?」
「うん、まあ・・・」
「あーいるんだ栄ちゃーん」
神谷の男特有のルックスの良さと引き締まった体型。
そして背が高い声優さんで、歌が上手でダンスもできるって言ってたし。
お調子者だけど、心優しい栄二くんのことだ。
もてないわけがないだろう。
決まった子はきっと、この子からは逃れられないはずだ。
私が頼雅さんにつかまったように。
真希は、自分を抱きしめている頼雅の手に、自分の手を重ねた。
「なんだよ」
いつも私に言ってくれるこの言葉が、今日はすごく甘く感じる。
そう言った後、頼雅さんが私の首筋に顔を埋めたせいかしら。
「うん・・・。神谷の人たちって、すごい縁を引き寄せ始めたなと思って」
「真希のおかげだ」
「そう言ってもらえると嬉しいな。次は誰が、この家に未来のお嫁さんを連れてくるのかな?」
「そりゃー・・・紹介されてからのお楽しみだろ?栄二」
「げっ!お、俺?俺っすか!」
「何上ずってんの」
息吹に突っ込まれた栄二には、全然聞こえていないようで、栄二はただ「俺きたーーーっ!」とはしゃいでいる。
「じゃあ近いうちに、ウワサの彼女に会えるんだ。楽しみだね」
「そうだな。これからこの家は賑やかになるな」
その様子が、なんとなくだけど想像できて、真希はニッコリ微笑んだ。
「頼雅さん、お仕事は?」
「5日間完全に休み」
「完全にってどういう意味?」
「呼び出しもかからねえってこと。この前の出張がんばったから休みくれって、夏乃さんと取引したんだ」
「取引って・・・でもよかった」
「ああ。おまえと一緒にいる時間を持ちたかったしな。おまえのご両親にも挨拶に行くぞ」
「え!」
まあ、そうだよね。
両親にはずっと会ってないから。
心配してるよね、親不孝娘のこと。
「今、親父がご両親のところに行ってる・・・っつーか、もうこっちに戻ってるところだ。申し訳ないが、ご両親はまだこの家に入れるわけにはいかない。だから、俺たちがご両親に会いに行くぞ」
きっと神谷先生は、私の両親を守るために出かけてくれていたんだ。
「うん。ありがとう」
真希は頼雅に抱きついた。
「素直でよろしい。明日にでも行くか」
「うん」
私の頭をなでてくれる頼雅さんの手が、とても心地よい。
でも、おなかすいた・・・。
と思った途端、真希のおなかがグーッと鳴った。
「頼雅さん」
「なんだよ」
頼雅は言いながら、笑いをこらえてる。
「おなかすいた。何か食べたい」
「よく言った。その調子だ」
「もっと甘えて、もっとワガママに、あなたを愛すること」
「そのとおり」
エゴイスティック・ラブ 完
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