第33話 現実で選んだ人 (R15)

真希は、にいる頼雅を引き寄せると彼の唇にキスをした。

キスをしながら、彼の汗ばんだ背中や腕をなでる。

頼雅さんのことがとても愛おしい。

その気持ちを手と唇に精一杯込めた。


そして頼雅さんにキスをしたのは、私のワガママでもある。

どうしても、頼雅さんにキスしたくなった。

そして頼雅さんにキスをしてほしかった。


頼雅は、キスの合間に「う・・・」と声を漏らした。

そして真希が彼の背中をなで始めたら、息遣いが荒くなってきた。


「やべえよ、それは」

「な、なにが?」


ビクッとした真希は、彼をなでるのをやめた。


「おまえの愛情がビンビン伝わってきてんだよ」

「あっ・・・ごめんなさい」

「バカ。そこは謝るところじゃねえだろ。ったく。俺、これでもかなりガマンしてんだけど・・・そろそろ限界だ。なんか言いたいことあるか」

「えっと・・・キスして・・・んんっ」


真希の願いに応えるべく、頼雅は彼女に濃厚なキスをした。

彼は彼女にキスをしながら、舌で口を開けろと促す。

口を開けた真希の中に、頼雅の舌が入ってきた。

そうして頼雅は、そっと腰を動かし始めた―――。


ああ、すごい。

私の中で、頼雅さんが入っているのをリアルに感じる。

って、これは「今起こっていること」なんだから、当たり前だけど。

でも。今、このとき、私の世界は頼雅さんと二人きりで、頼雅さんが私の全てになった気がした。


頼雅が動くたびに真希は体と心、全てで感じていた。

真希は思わず彼の体にしがみつく。

肌が触れ合っただけで、熱さと甘い温もりを感じる。


「さっき初めて俺に”お願い”したな」

「え・・・なに・・・」


私、頼雅さんがしゃべっていることを聞くだけで精一杯なのに・・・なんで頼雅さんは相変わらず余裕があるの?

頼雅さんだから?

ああもう、分かんない!


「初めてのおまえからの頼みが”キスして”っていうのも・・・悪くない」

「はじめてじゃない・・・です、よ」

「あ?」

「おまじないして・・・って、頼んだことある・・・はあっ・・・」

「そうだったな」


頼雅は優しい微笑を浮かべた。


あぁ熱い。体が溶けるかもしれない・・・。

溶けて、頼雅さんの一部になるのかしら。

真希はありえないことを考えてしまった。


「真希・・・」

「は・・・い」

「もっと俺に甘えたり、ワガママ言えよ」

「え・・・?」


今言われても、理解、できない・・・。


「もっと俺に対して貪欲になれって・・・言ってんだよ。俺への思いを抑えてほしくない。俺、かなり・・・ワガママだから・・・」

「あ・・・らいが・・・さん」

「感じるか」

「ああ・・・ダメ・・・もうダメ!」


「はああっ」と頼雅は叫ぶと、真希の上にドサッと乗った。

しかし彼はそのまますぐに彼女を抱きかかえ、彼女を自分の少し上に乗せてくれた。


頼雅は真希のことを放すまいと、ギュッと抱きしめている。

真希はそっと、頼雅の左胸の上に手を置いた。

彼の心臓のドキドキという鼓動が、彼女の手を伝って早く、そして力強く聞こえてくる。


「俺・・・生きてるよな・・・」


ハアハアと荒い息をつきながら、頼雅は真希に聞いた。


「生きてますよ・・・私も・・・」


真希は頼雅の左胸を無意識になでながら、そう答えた。

そしてこれ以上は無理だというくらい、頼雅にくっついた。


「・・・おまえさ、あのとき聞いたよな。”困っていた自分が放っておけない”とか、”自分じゃなくてもいいんじゃないか”とか」

「あ・・・はい」


その疑念は、でかなり薄れたけど、まだ完全に消えたわけじゃない。


「俺は自分の目の前で、誰かが助けを求めてくれば、絶対に助ける主義だ。だからおまえを助けた。それは事実だ。逆に聞くけど、おまえは俺の弟たちにも、俺に対する愛情と同じ気持ちを持ってるのか?」

「持ってません!」


真希はムキになって即答した後、一呼吸して続ける。


「私は、神谷先生のことも、弟さんたちのことも、もちろん大好きです。でも先生のことはお父さんのように思っているし、栄二くんや誠くんのことは、自分の息子みたいに思っているし」


それを聞いた頼雅は、プッとふきだした。


「新くんは年下のお兄さんっぽい弟、武臣さんはお兄さん、息吹くんは可愛い弟みたいに思ってます。と同時に、大切な家族で友だちのようにも思っているんです」

「だと思った」

「なら聞かないでくださいよ!」


むくれた真希をなだめるように、頼雅が「まあまあ」と言って、彼女の頭を優しくなでてくれた。


「俺が言いたかったのは、この家に来たのは真希、で、俺はおまえと出会った。だから”他の女だったら”とか、とにかく起こってないことついては、いくら霊力が高い俺でもわかんねえよ」

「・・・そうですね」


結局私は、5人の弟くんではなく、頼雅さんを選んでいた。

それが私たちの世界での事実なんだ。

その答えで十分だと真希は思った。

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