第32話 部屋でともに寝ることの意味 (R15)

頼雅は真希の頬から耳、そして首筋までを舌でなぞりながら、わき腹や胸の近くを繰り返し手で撫でた。

おかげで真希は、自分の体がだんだん熱くなっていくのを感じる。

しかし頼雅が真希の左胸に触れたとき、彼女はまた拒絶反応を起こした。


「だ、ダメッ!見ないで!」

いまさらだとは思うけど、私は胸を手で隠した。


「・・・これ、ヤツにやられたのか」と頼雅に聞かれた真希は、仕方なくコクンとうなずいた。


「あいつ・・・”おしおきだ”といって。私を押さえつけて、持ってたポケットナイフで、私のブラウスとブラを切って・・・最初はたまたま胸が切れてしまっただけだと思う。傷は浅かったけど、血が出てくるのを見て興奮したあいつは、それを舐めて喜んでた。それ以来、傷口がふさがる頃になると、あいつはいつも同じところを同じ長さと深さに切って・・・」


結局その傷跡は、左胸に残ってしまった。

これもあいつの呪縛なのかしら・・・。


「病人と狂人が混ざった変態だな、蛇野郎は」

「それ・・・すごい言い方」

「痛むのか?」

「ううん。でも頼雅さんには見られたくなかった・・・って、もう散々私の醜い部分を見せといて、何をいまさらですけどね」


アハハと自虐的に笑う真希に、頼雅はキスをした。

そうして手は再び、彼女の体をあちこちさまよう。


「俺がどれだけおまえのこと愛してるか、俺が触れただけでおまえに伝わってるか?」

「そ、そんなこと言わないで・・・」


真希の目には涙が浮かんできた。

その涙を、頼雅は舌で舐めとる。


「俺、おまえに泣かれるのは弱いって言ったろ?でも今日は泣いていいぞ。おまえの中に溜まった感情を全部解放しろ。俺が受け止めてやる」

「だ、だから・・・そんなに優しくしないで!」


なんでだろう。私、何に怒ってるの?

自分の中にある弱さとか、頼雅さんにもっと甘えたり、もっとワガママを言いたいっていう欲求を抑えてること?

「頼雅さんは私のものだ」としてしまってることに対して、私は怒ってるの―――?


「なんでおまえに優しくしちゃいけねえんだよ」

「勘違いしちゃうから!」

「あ?何が」

「私のことをとか・・・それっての間違いでしょ!」

「あー。ま、それもあるかな。でもな、俺は同情で惚れた女にプロポーズしねえぞ」

「そ・・・それ、は・・・」

「それに俺、プロポーズしたのはおまえが初めてだし、自分の家、ってかで、誰かとセックスするのも初めてだしな。これは霊力者である神谷の家のもんにとっては、すげー大事で特別なことなんだ」

「なん・・・ですか?それは」


真希は、自分のにいる頼雅をまじまじと見た。


神谷邸このいえに入れる部外者は限られている。普段暮らしてる家に邪気を寄せつけないこと、そして神聖な気を保つことは、霊力が高い俺たちにとっての必須事項だと言える。だからみんな徹底してそのルールを守ってる」

「なるほど。要するに”鉄の掟”、みたいな感じ?」

「まぁ・・そうだな。どうやらおまえはを理解したようだから説明続けるぞ」

「はい」

「この家に入れる者は、当然だがこの家に住む俺たち家族。それから俺たちと同じく高い霊力を持つ親族。そして、家族のパートナーとなる相手。俺たち男の場合は未来の妻となる女だな。頼友はゲイだから男だが」

「じゃあ私は・・・」

「最初親父が”女連れてくる”って念送ってきたとき、親父が再婚するのかと思ったんだ。だが親父の相手にしては歳がかなり若い。じゃあ一体相手か・・・」

「ちょっと待って!それじゃあということ?・・・でしょうか・・・」


今度は驚きの顔を隠せないまま、真希は頼雅を見た。


「うーん、結局はそういうことだな。いくらおまえが親父に助けを求めても、基本、親父はには連れて来ない。たとえそれが相手にとって命に関わる緊急事態だとしても、だ。そういう場合は家に邪気を入れないために、なおさら連れて来るわけにはいかねえんだよ。だが親父はおまえを家に入れた。ということは、おまえがこの家の一員になるという確信が、親父にはあったんだろう。しかし誰の相手かまでは、親父も、俺たちの誰にも分からなかった。俺は最初、武臣の女かと思ったが、あいつは”違う”と言ってきた。他の弟たちにはもう目をつけた女がいるし」

「ええっ?!」


誠くんと息吹くんの好きな子なら知ってるけど、新くんと栄二くんにもいたなんて。


「それで結局、消去法で俺。でも俺か?って感じでさ、全然確信がなかった。おまえに初めて会うまでは」

「”名前は”って唸るように聞いてきた、あのときですか?」

「いや、違う。おまえはソファで丸まって寝てた」

「ああ・・・あのとき、ですか」


真希は額に手を、無意識に当てていた。


「あの日から俺は、おまえのデコにマーキング始めたんだ」

「なっ・・・なんですって?!」

「言っとくが、あれはおまえが朝まで眠れるように、俺のオーラを少しだけ分け与えてたんだ。本当のだぞ、本当の」

「そうですか。それは・・・ありがとうございます」


他にどう言ったらいいのか、分かりません・・・。


「そして俺たち神谷の男は、こいつだと思った相手、つまり結婚という形でもいい、とにかく。これがどういう意味か、おまえには分かるか?」

「いいえ・・・すみません」

「謝ることじゃねえよ。セックスは肌を重ねる行為だ。つまり、自分と相手のオーラとエネルギーを大量に受け入れ合い、そして与え合う行為と言い換えてもいい。

霊力が高い俺たちにとって、それは”精神の命”に関わる行為なんだ。だから余程の覚悟がないと家に入れるわけにはいかねえ。まして自分の部屋やベッドまで使わせるわけにはいかねえんだ。これは我が家にとって、絶対守らなきゃいけない掟だ」

「あ・・だから頼雅さんは、私に部屋の掃除をさせてくれたの?」

「ああ。少しずつ、おまえのオーラを部屋に取り入れとこうと思ってな。準備万端だろ?」

「本気・・・なんですね」

「そのつもりだが。少しは伝わったか?俺の愛情が」

「はい・・・たぶん」

「じゃあ続きだ。5秒とっくに過ぎたぞ」

「・・・はい」


真希の怒りは、いつの間にかどこかに行ってしまった。

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