第31話 感じるのは罪? (R15)

頼雅から外された真希のブラが、ストンと下に落ちた。

それはシャワーのお湯で濡れていく。

反射的に、真希は胸を両手で隠した。


頼雅は、自分の服と下着を全部脱ぐと、胸を隠したまま呆然と突っ立っている真希のズボンと下着を脱がせにかかった。

真希は機械的に足をずらし、ズボンと下着から解放された。


この人の表情を見ても、彼が何を考えているのか分からない―――。

頼雅は、お湯が出ているシャワーの下に真希を優しく促すと、スポンジを泡立て始めた。


彼は「お清めだ」と言った。

私たちに憑いた邪気を、聖なるお湯で取り払うお清めだと。

実際、頼雅さんは、淡々と、そして丁寧に、私の体を隅々まで洗ってくれる。

そこに恋愛の欲望は見えなかった。

でも彼は、洗うのが上手だと思った。

きっと過去、つきあっていた女性たちにも、こうして体を洗ってやったことがあるんだろうと思わせる経験を、私に匂わせた。


頼雅さんは私より年上で、しかもこんなにハンサムでたくましくて、何よりカッコいい男性だ。

当然、今までつき合った女性はいただろうし(もちろん一人じゃなくて何人か)、実際に前カノと別れた話も聞いたことがある。

その人ともここで、こうして・・・。


そのとき真希は、頼雅と目が合ったことで、彼と向かい合ってシャワーを浴びている現実に引き戻された。


頼雅は、頬にはりついている濡れた真希の髪を優しくはらい、それを口実にしたように、大きな手で真希の両頬に触れた。

そして彼の顔が彼女に近づき・・・真希の唇にそっとキスをした。


「こ、これも、とか・・・」

「んなわけねえだろ」


また、頼雅が真希にキスをした。

今度は長く、そして深く、ゆったりとしたキスだった。


こんなキスをされたのは生まれて初めてだ。

体中の力が抜けていく。

シャワーのお湯の中のせいか、息がままならない。

でも・・・でも、やめたくない。


いつの間にか、二人の体の前部分は、ピッタリ密着していた。


頼雅さんは、私から唇を離すと、ハアハアとあえぎながら空気を求める私を片手で抱きしめながら、もう片方の手を伸ばし、シャワーのお湯を止めた。


「お清めは終わりだ」


頼雅は言うとニコッと笑い、真希の手をつないで、お風呂場から出た。

そしてお風呂場から出た途端、真希を抱きかかえて、ベッドに寝かせた。


「あっベッドが濡れる・・・あれ?なんでタオルが・・・」

「準備万端だろ?」と頼雅は言うと、真希の上に覆いかぶさり、またキスをしてきた。


頼雅のキスは、優しくて激しかった。

真希の唇だけじゃなく、頬や耳についたシャワーのお湯を吸い取るように、口をつけていく。

頼雅の口が触れたところに、いつもの温もりが芽生えていく。

でも真希の体と心のどこかに、まだ恐怖が残っているのだろう。

真希は目をギュッとつぶり、決して頼雅の顔は見ないようにしていた。


そして頼雅の手が真希の腕に触れたとき、真希はビクッと体をこわばらせた。

「真希、力を抜け」と頼雅に言われて、初めて自分の体がガチガチに緊張していることに気がつく。

でも真希は力を抜くこともできないし、体のこわばりも取れない。

そんな彼女に構わずに、彼は私の顔中にキスの雨を降らせていく。

合間に頼雅は「考えるな。ただ感じろ」と言いながら、真希のわき腹にそっと大きな手を置いた。


「い、いや・・・やめて・・・やめて!」

真希は、頼雅の胸板を手でバンバン叩いて抵抗した。


「なんだよ」

すでにキスも手も止めた頼雅が、いつものセリフを真希に言った。


「それ・・・やつも言ったの・・・”俺を感じればいい”って」と言った後で、真希は思いきり後悔した。


こんなの、頼雅さんは聞きたくないよね。

ああ、私って最低最悪の女だ・・・。

泣きそうになった真希は、両手で顔を隠した。


「それで、おまえは感じたのか?」


頼雅の口調はとても優しかった。

真希は手で顔を覆ったまま、「ううん・・・うん・・・正直、よく分からない。でも嫌だっていう気持ちは、いつもあった」


最後は手を外し、でも頼雅から視線をそらしたまま、真希は答えた。


「人って、体と心で感じる部分が違うんだよ。いくら心が嫌がってても、体でと感じてしまうこともある。だがそんなセックスは、終わった後に虚しさを感じる。それでもいいから体を求めるヤツはセックスに依存してるんだ。体の温もりと心の温もりを、混同してるんだな」


頼雅さんの視線を感じる。だけど、私は彼の顔を見る勇気がなかった。

そんな真希にかまわず、頼雅は話を続けた。


「俺はセックスって、相手のことがどれだけ好きなのかを体と心で表現する、最高のスキンシップだと思う。なんつーか、触れるだけで相手からの愛情が伝わったり、逆に伝えることができたら、それは素晴らしいことだと思うんだよな。なんて、偉そうなこと言ってるが、心底惚れた女とセックスするのは、俺、初めてだから・・・」


真希は思わず頼雅の顔を見た。

そこに嘘偽りは全然ない。

当たり前だ。

私が知ってる頼雅さんは、自分が言ったことにウソはつかない――。


「おまえが嫌がることはしない。おまえが嫌だと言ったら、いいと言うまで待つ」

「そんなこと・・・できるの?」

「5秒までならな」


それを聞いた真希は、ゲラゲラ笑った。


私ったら・・ついさっきまで泣きそうになっていたのに、今は大笑いしている。

頼雅さんと一緒にいると、いつもこうなる。

この人は、私のあらゆる感情を動かす術を知ってるみたいだ。


「真希、5秒過ぎた。続けるぞ」


頼雅は笑っている真希に言うと、彼女の首筋にキスをした。


「なまえ・・・呼んでくれた・・・」

「ソファで眠ってるおまえにデコチューするするときは、いつも”真希”って呼んでたぞ」


そんなこと・・・私眠ってるから、知らないじゃないの!


「やっぱり、ずるい。頼雅さんは」

「何とでも言え」と頼雅は言いながら、真希の体を探索し始めた。

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