第30話 いきなりプロポーズ?! (少々R15)

ハハッと笑っていた頼雅は、不意に真顔になると「さっきは嫌な思いさせて悪かったな」と真希に言った。


「いえ・・・」


正直、この人にああいう話を聞かれたことは嫌だけど、もうお別れだし・・・。

チクッと痛んだ胸を、真希は無視した。


「あいつを病院送りにするために、証言が必要だと言われてさ」

「病院って・・・?」

「あいつは死ぬまで病院から出ることはない。これでおまえを二度と傷つけることもない」

「あ・・・そうですか・・。そう言えば頼雅さん、あいつの借金のことですけど」

「ああ、あれな。金融会社の社長と話はつけた。利息なしの5千万は俺が払っといたから」

「え!」

蛇男あいつは支払い能力がない病人だ。だからといって金融会社も損はしたくないだろ?俺が払うって言ったら、それで終わりにしてくれた」

「そう・・・ですか」


ああもう。私、さっきから、「そうですか」しか言えないんだけど!


「金融会社の社長と息子は昔の知りあいだったんだ。だから穏便にことは済んだ。気にすんな」


「知りあい」というのも、いろいろな意味がある。

気にはなるけど・・・まあいいか。


「ありがとうございました。あの、頼雅さん。あの時確か・・”結婚を無効にした”とか言われてましたけど・・・」


真希は、一番気になっていたことを、ついに聞いた。


「あぁ、これが一番手間取ったんだ。役所のやつらが”プライバシーがどーのこーの”言ってなかなか動こうとしねえからよ、こっちが”警視総監”出したら、やっと動きやがった。あんなに早く終わるなら、サッサとしろってんだよ!ったく。融通きかねえんだよ、役人どもは」

「ちょっと!それは職権乱用じゃないの?!」

「”俺のネットワークを駆使した”と言え。そのほうが聞こえがいいだろ?」


運転中の頼雅は、正面を見たままニヤっと笑った。


まったく。この人には「できない」という言葉の意味が分からないのかしら。

でも・・・頼雅さんなら不可能を可能にするあきらめない意思と、強い力がある。

この人はそういう人だ。


「大体、”佐田真希”って名前、おまえには似合わねえんだよ」

「それは同姓同名の方々に失礼じゃないですか?!」と真希が言うと、頼雅はまたハハハと笑い出した。


そして頼雅は笑い終えると、正面を見たまま、「おまえはが一番似合う」と言った。


え・・・今のはまさか・・・プロポーズ?


「あ、あの・・・」


真希は口をパクパク動かして、頼雅のハンサムな横顔を見ることしかできなかった。


「結婚はこりごりだって言うなら別にしなくてもいい。仕事も辞めてほしければ辞めるし、あの家に住みたくないって言うなら、出て行ってもいい。だけど俺は、おまえを一生そばにおいとくからな。おまえが嫌だと言っても、俺は一生おまえと生涯をともにする」

「・・・ずるいよ、頼雅さん・・・」

「は?プロポーズの返事が”ずるい”って・・・なんだよそれは」

「だ、だって、頼雅さんはわたしのこと・・・困ってるから、放っておけなくて・・・それで助けてくれたんでしょう?」

「それがどうした」

「だからそれは、ってことでしょう!」


ちょうど真希が叫ぶように言い終えたときに車が停まった。

どうやら神谷邸に着いたようだ。

タイミングがいいのか悪いのか・・・。

と思いながら、真希は車から降りた。


運転席から降りてきた頼雅が、すかさず真希の手をつなぐ。

それは全然強引ではないから、真希にとっては厄介だ。

玄関のドアを開け、彼が「ただいまー」と声をかけると、すでに5人の弟たちが勢ぞろいして待っていた。


「おかえり!どうやら無事に終わったようだね」

「当たり前だろ。塩!」

「はいはい」


頼雅は真希の手をつないだまま、器用に足だけで靴を脱ぎ捨てる。

「さすが頼雅」「やったなー!」と弟たちが口々に言う中、頼雅は「おまえも早く靴脱げ」と真希にした。


そう頼雅は真希に言いながら、彼は彼女の手を離さない。

結局、真希も頼雅に倣って、足で靴を脱ぎ捨てた。


「こいつは明日の朝まで俺の部屋で過ごすから、おまえら、晩メシはてきとーに食っとけよ」

「え?!ちょっと頼雅さんっ!!」


明らかに戸惑っている真希の手を引っぱるように、頼雅はズンズン歩いていく。

その後ろから、「ラジャー!」「ういーっす!」「はーい」と、弟たちの肯定の返事が聞こえてきた。

途中、頼雅がふり向いて、「誰か、靴そろえといて」と頼むのを最後に、真希は頼雅と階段を上がっていった。


「頼雅のやつ、ついにやったな」

「うはーっ!明日の朝まで全解ぜんかいーっ!」

「栄二!ここでアニメキャラ出すなっ!」

「新。チャンネルは閉じとくんだよ」

「分かってるって。これ聞いちゃったら俺が欲求不満になっちゃうよー」

「晩メシ何食う?」

「武ちゃん、何か作ってよー」と5人の弟たちは言いながら、キッチンへ歩いていった。





頼雅の部屋に入った真希は、彼の部屋にある浴室に連れて行かれた。

そこでやっと手を離してくれた彼に「ちょっと頼雅さん!今から何をするんですか!」と、真希は突っかかる。


だ。俺たちに憑いた邪気を取る。ほら、両手しろ」


いきなり言われたせいか、真希は素直に両手をあげて”万歳”の恰好をした。

すぐさま頼雅は、真希のTシャツを脱がせてシャワーの栓を開けた。

途端にお湯の流れる音が聞こえ、辺りは湯気に包まれ始めた。


「きゃあっ!頼雅さんっ!!何する・・・」


ちょっとちょっと!

ここはお風呂場って分かってるし、お風呂やシャワーは裸で・・・って分かってるけど、いきなりTシャツ脱がされた上に、頼雅さんも平然と服脱ぎだすし!

どうしよう・・・逃げ場もない。


突然の展開に、真希はついていけない。

ただアタフタしているうちに、頼雅のたくましい上半身が、真希の眼前にドンとあらわれた。


ああ、なんて・・・カッコいいの。

気づけば真希は、「この場から逃げ出すこと」なんて頭の中からするりと抜け落ちて、頼雅のたくましい胸板に惚れ惚れと見とれていると、頼雅が一歩、真希に近づいた。


「心配すんな。ただ体洗うだけだ」


頼雅は優しく言うと、真希の体に腕を回し、ブラのホックを器用に外しながら、「ここでは、な」と囁いた。

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