第28話 頼雅の逆襲 (少々暴力描写アリ)
頼雅はズボンのポケットから、赤いボールペンを取り出した。
それは真希も小学校の先生時代に、よく使っていた記憶がある、どこにでも売ってるごく普通のボールペンだ。
彼はそれを右手の指でクルクルと回しながら、「んじゃ、言いたいことがあるなら、そちらからどーぞ」と、余裕たっぷりに言った。
真希の夫(蛇男)は、頼雅がクルクルと規則的に回す赤いボールペンを凝視している。
真希は、反射的にゴクンとつばを飲み込んだ。
あいつは、自分の目の前でああいうことをされると、すごくイライラする性格だ。
以前、私がキャベツの千切りをしていたとき、突然「俺をバカにしてるのか!」と怒鳴られたことがあった。
今になって思うと、やっぱりあいつはヘンだったんだなと思う程度だけど、あのときはビクッとして、包丁で指を切ってしまった。
頼雅さんは、わざとあいつを挑発して、怒らせようとしてるんだ・・・。
反り気味に座って脚を組み、ールペンをクルクル回す頼雅さんは、余裕の笑顔を崩さない。
そして、とてもリラックスしているように見える。
実際そうなのだろう。
私とつながれているもう片方の手から、それが伝わってきた。
「まずは、真希を・・・私の妻を世話してくれたことに感謝します。あ、真希は私の妻だと言いましたっけ?それとも、真希から聞きましたか?自分は結婚していると。知っててそいつに手を出したんですか・・・すまないが、それ、やめてくれませんか」
それでも頼雅はまだ、赤いボールペンをクルクル回すことを止めない。
蛇男は苛立ち気味にチッと舌打ちすると、話を続けた。
「真希とは3年前に出会った。一目ぼれだった。俺の仕事、知ってるか?役所の区民課なんだ。だから、真希が住民票の申請に来たあのときから、俺はおまえを自分のものにすると決めた」
それを聞いた真希は、愕然とした。
そんなに前から、この男は私を狙っていたのか・・・。
「それからは、おまえのことを調べるのが俺の日課になった。おまえの職業、毎日やること。おまえには男がいないことも知った。まあ、いても俺には関係ないけどな。おまえは俺のものだから。くそっ、それやめろよ!イライラする!」
それでも頼雅は、赤いボールペンをクルクル回すことを止めない。
そして相変わらず余裕のポーズと表情のまま、蛇男に話し続けるよう、促した。
「そして半年後、俺はおまえに近づいた。告白をし、つき合いが始まった。おまえが俺のことを断れなかったのは、俺がおまえの好みのタイプに入ってたからだろ?優しいところとか、少し甘やかすところとか。背の高さや体型だってそうだ。おまえの好みの男や、おまえのクセ、おまえが好きな食べ物・・・半年の間に、すべて調べつくしたんだ。ああ、でも空手を習っていたのは、おまえに出会うずっと前からだぞ。女は強い男に弱いからな」
ククッと笑う目の前の「夫」を見て、この人は本当に卑劣な蛇だと真希は思った。
「こんなに俺はおまえのことを愛しているのに、まだおまえにはそれが分からないのか?帰ったらおしおきしないといけないな。どのやり方がいい?縛るのはマストだな。そのほうが真希、感じるんだろ?え?あんた、知ってるか?真希のあそこ、すごーく締まってるって」
「やっ、やめて・・・!」
真希は夫の話を止めさせようとした。しかし頼雅は、つないでいる手をギュッと握って、真希を制した。
「挿れると痛がるんだけど、俺、それが好きなんだ。初めは乾いているけど、だんだん濡れてきてさ。実は真希も感じてるんだよな?」
真希はいたたまれなくなり、ただ下を見て耐えていた。
頼雅さんの前で、こんな話をしてほしくなかった。
でも頼雅さんは「俺を信じろ」と言った。
きっと、あいつにこの話をさせて、もっとあいつの自尊心をくすぐるのが目的だろう。
大丈夫。頼雅さんがいる限り、私は大丈夫だ。
真希はつながれている頼雅と自分の手を見ると、気持ちギュッと握り返した。
「あんた知ってる?真希が好きな体位とか、真希が感じるところとか。知らないよね。だって真希は俺の妻なんだから、あんたと寝るわけないし。俺がイッった後、真希の胸に顔を埋めるのが、俺の至福のひとときなんだよなー。真希って以外と胸大きいでしょ?形も大きさも、すべて俺好み。ああ、話しているだけで想像できて、俺、それだけでイきそうだ。でもここだとあんたがいるし。別に見せてやってもいいけどね」
この人は完全に狂ってる・・・。
アハハハと笑っている「夫」を、もう怖いとは思わなくなっていることに真希は気がついた。
「さあ真希。そろそろ帰ろうか。俺、もう溜まっちゃって。これから一晩中、おまえを可愛がってあげれるよ」
「帰らないと前に言ったでしょう」と、無表情を装った真希が淡々と言うと、「真希。おまえは俺のものだ。一生逃がさないよ」と蛇男は言った。
その言い方や表情に、以前は恐怖を感じた。
顔で笑って心で怒って。
それか、顔と心、両方ともに怒っていた。
何がこいつをここまで狂わせたのか、私には分からないけど、今はただ、気の毒だとしか思えない。
「ワガママを言うのはもう終わりだ。真希。いい加減、俺の言うことを聞きなさい。俺が帰ると言ったら帰るんだ・・・おい!それを回すの、もうやめろよ!」と叫ぶように蛇男は言って、椅子からガタンと立ち上がったのと、頼雅が真希から手を離したのは、ほぼ同時だった。
いや。
正確には、頼雅のほうが少し早くて、しかも、それ以上のアクションを起こしていたのだ。
蛇男が席を立って、真希をつかもうと左手を伸ばしてきたとき、頼雅も真希の手を離して立ち上がり、蛇男の左手首あたりを左手でつかんだまま、その手をバンッとテーブルに叩きつけた。
同時に右手でクルクル回していた赤いボールペンのキャップを右手の親指で外し、その先を、テーブルに押さえつけている蛇男の小指と薬指の間に刺していた。
この間のアクション、たぶん2・3秒。
それから赤いボールペンのキャップが下に落ちるかすかな音がした。
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