第25話 久しぶりの再会

「あの、武臣さん。ありがとう、来てくれて」

「お礼なんて言わなくてもいいよ。それより、来るの遅くなってごめんね。ちょっと探すのに手間かかっちゃって」


そんな・・・優しすぎるよ、武臣さんは。

ううん。神谷の男たちは、みんな私に優しすぎる!


「ごめんなさい。一人で出歩くなって言われてたのに・・・。でも、どうしてもあいつに、絶対帰らないって言っておきたかったの」


あいつに腕力でかなうはずないってわかってたけど、それでも後先考えずに行動した結果がこれだ。

結局みんなを巻き込んでしまった。

どうしようもないくらいバカだ、私は。


「そんなに自分を責めちゃダメだよ。護りたかったんでしょ?僕たちのこと」

「な・・・んで」


気持ち、読まれちゃったのかな・・・。

真希は思わず、運転中の武臣の横顔を見た。


「真希さん、考えてることが分かりやすいから」

「あ、そうですか・・・」


単純だもんね、私。

ガクッときた真希はまた、正面を見た。


「それにね、僕たちだって真希さんを護りたいから、真希さんの気持ちは読まなくても分かるよ。でもまあ、これで、頼雅を本気で怒らせちゃったことは間違いないね」

「ああ、どうしよう!私・・・」


頼雅にどやされることを想像した真希は、思わず頭を抱えてしまった。


「あぁ、違うよ。真希さんにじゃなくて、蛇男くんに怒ったってことだから」

「ヘビオって・・・」


あいつにピッタリなあだ名だ。

こんなときなのに、真希はプッとふき出した。


「僕たちを護りたくて、真希さんはきっと一人で行動する時が来るから、真希さんを絶対護れと頼雅に言われてたんだ。だから僕たち、今日はあちこちに散らばって、真希さんが行きそうなところを見張ってたんだよ」

「え?あのー・・・もしかして、私が一人であいつに会うこと、事前に知ってたんですか?」

「うん。昨日何か・・・メモ?みたいなのをもらったんじゃない?すごい邪気放ってたからみんな気づいてたよ」

「・・・すみません」


もう、謝るしかないわ・・・。


「それに数日前から、真希さんの周辺に邪念を感じてた。頼雅が結構駆除してくれてたけど、彼が留守にしてる間にドバーッと来たねー。たとえば喉とか」

「あ・・・」


急に痒くなって掻いた痕が、なかなか消えなかったのよね。

真希はそっと自分の喉に手を当てた。


「それね、誰かが真希さんの首を絞めてる姿が、僕たちには視えてたんだ」

「えええっ!!」


ビックリして、真希は思いっきり叫んでしまった。

そんな真希を横目に見ながら、武臣は、いつもどおりの温厚な態度で、真希に話し続けた。


「だからこれは蛇男くんの仕業だろうと思ってね。近いうちに姿を現すんじゃないかと、僕たちも機会を狙ってたんだ。挨拶されたからには、返さないと。ね?」

「はぁ・・・」


こんなことを爽やかな笑顔で話す武臣さんって、やっぱりSだと、改めて真希は思った。


「でも頼雅の場合、いつもは100倍くらいにして返すからなあ。本気出したらどうなるか・・・怖い怖い」

「だからそういうことを、サラッと言わないでくださいよ!」


もう武臣さんったらとブツブツ言う真希に、「僕ね、頼雅が本気で怒ったところ、見たことないんだ。たぶん誰も見たことないんじゃないかな」と武臣は言った。


「え?そうなんですか?」

「普段は加減してるからね。でも今回は、事情が事情だから」


”加減して”100倍返しですか・・・。

でも頼雅さんのことだから、そう言われると、妙に納得しちゃうんですけど!


「頼雅、今こっちに向かってるって。たぶん着くのは夜中くらいになるんじゃないかなー」

「そうですか」


たぶん、私のために早く帰ってきてくれようとしているんだ。

いやいや、これも自惚れた私の思いこみか。

とにかく、頼雅さんに早く会いたい。

怒鳴られてもいいから、彼の声が聞きたい。


真希は祈るように両手をギュッと握りしめた。





神谷邸に帰ってきた真希は、「大丈夫?」とか「心配したよ」など、みんなから口々に声をかけられ、順番にぎゅーっと抱きしめられた。


「真希さんから離れろ、新!」

「おまえがそうすると変態にしか見えない」

「いーやーだー!」と新は抵抗したけど、案外すんなりと離れた。


栄二は真希を抱きしめながら、「もうこんなの嫌だからね」と言った。


「ごめんね、ウソついて」

「バレバレだっての!それなのに、ウソつかれたフリ、しないといけなくてさぁ」

「すいません・・・」


つい栄二くんの口癖が出ちゃった。


「あんまり無茶しないでくれよ」

「うん。ごめんね」


誠は、「よかった」と何度もつぶやきながら、ただ真希を抱きしめていた。


普段私は、栄二くんや誠くんを、自分の息子のように思っているけど、今は立場が逆転したような気がする。

いや、実際私は、この若い二人からいつも護られていたんだ。


若くても、すごく頼りになる男の子たちを、真希はとても誇らしく思った。





夜の11時過ぎに、頼雅は帰ってきた。

玄関先で、武臣と話している頼雅の声が、リビングにいる真希にも聞こえてくる。

彼の声を聞いただけで、私の心と体全部に温もりが行き渡るのを感じてホッとする。

その間に頼雅さんがリビングに来た。


ソファに座っていた真希は、頼雅の姿を見て、思わず立ち上がった。


あ・・・なんか、私の心臓が、うるさくドキドキ言ってるのが聞こえる。

なんで私は彼を見ただけで、こんなに嬉しいと思ってるんだろう。

無言で私に近づいてくる頼雅さんは、無表情だ。

怒ってるのかどうか、それも分からない。

とにかく早く言わなきゃ。謝らなきゃ!


真希の目の前で立ち止まった頼雅の目を見て、真希は「ご、ごめんなさい!」と噛みながら謝った。

しかし頼雅は相変わらず、無言で無表情のままだ。


きっと、ハンパなく怒ってるってことだよね・・・。

真希は頼雅のたくましい胸板に視線を落した。

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