第22話 大黒柱がいない家
「う・・・」
苦しい。誰かが・・・私の首を絞めてる・・・。
息ができない。
助けて。誰か。
頼雅さん、助けて!
真希はガバッと布団から跳ね起きた。
ゆ、夢か・・・。
それにしてはリアルだった。
でも私は今、神谷邸の部屋にいる。
真希は上がっていた息を整えると、水を飲みにキッチンへ行った。
いつもより30分くらい早く起きることになるけど、2度寝するには足りないし。
それにまた寝る気にはならない。
早起きは三文の徳って言うし。きっと今日は何かいいことが起こるはず。
そうそう、新くんみたいに何事もポジティブ思考でいきましょう!
真希が自分を奮い立たせるように、グーにした右手を高く掲げたとき、キッチンにいた頼雅と目が合ってしまった。
「朝から元気いいな、おまえ」
「あ・・・おはようございます・・・」
ああもう。また頼雅さんにヘンなところ見られちゃった!
「おはよ。今日は早いな」
「頼雅さんだって」と真希は言いながら、水を飲もうと頼雅の横を通り過ぎたとき、彼に腕をつかまれた。
「ひでえ顔だな」
「・・・それはどうも」
朝から褒め言葉もらっちゃった。
でも、悪夢にうなされた私の顔は、実際ひどいと思う。
「うなされたか」
「そんなところです」
「しつこいな、蛇男も。ほら、これ飲め」
いつの間にか頼雅は、真希のために浄化の聖水を作っていた。
「あ、すみませ・・・まさか頼雅さん、このために早起きしたとか・・・」
「おまえの気配はなるべくいつも感じるようにしておきたいんだ。でもおまえのプライバシーを侵害してないから安心しろ」
「ありがとうございます。私をいつも・・・守ってくれて」
「約束したからな」
あ、頼雅さん、また照れた顔してる。
真希の心は再び温もりで満たされた。
「頼雅さん、今朝は何食べたいですか?しばらくお留守にするんだから、食べたいもの作りますよ」
「まるで最後の晩餐みたいな言い方だな」
「そうですか?」
「私はただ、寂しくなるだけです」と言いたいけど、それを言ってしまうとまさに、「ワガママな彼女状態」だ。
だからそのセリフは、心の中に止めておいた。
「何でもいい。おまえが作るもんは何でもうまいから」
「は・・・はいっ!」
真希は赤くなった顔を見られたくなかったので、いそいそと朝食を作る準備を始めた。
今日から頼雅さんは、仕事で数日家を空ける。
そして昨日から、神谷先生も取材旅行に出かけた。
神谷家の大黒柱2人がいなくなる家なんて・・・。
どこまで寂しくなるんだろう。
でもこういう状態は、私がいなかったとき、よくあったそうだ。
というより、それがごく普通の状態で、頼雅さんの他にも、神谷の男の誰かが仕事で家を空けることはよくあると聞いて、そうなのかと納得した。
でもやっぱり、一人でもいないと寂しい。
もし、私がいなくなったときは、みんなもそう思ってくれるのかしら・・・。
「じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃーい」
今朝は5人の弟たち全員、頼雅さんを玄関まで見送ることにしたようだ。
みんなが出るまでまだ時間もあるし、数日会えない寂しさも、やっぱりあるよね。
「おまえら、俺の留守中、しっかり家を守れよ」
「はーい」と返事をする5人の弟を見て、頼雅はうなずいた後、「おまえも返事しろ」と真希に言った。
「え?私ですか?」
「おまえも神谷の家のもんだろうが」
「私・・・はい」
「じゃあこの家ちゃんと守れよ」
「はいっ!」
無力な私だけど、この家を好きだという気持ちは、誰にも負けない。
そこのところを、頼雅さんは分かってくれているんだ。
途端に真希はニコニコ笑顔になった。
「よし。それからおまえら、分かってるな?」
頼雅は5人の弟たちに、暗号のような問いかけをした。
どうやらこの問いかけに、真希は含まれていないようだ。
そして、弟たちはみんな理解をしているようで、皆心得顔をしながら「分かってるよ」とか「任せて」と口々に答えている。
その後、頼雅は「じゃあ頼んだぞ」と5人の弟たちに言うと「今回は3・4日かかると思う。一人で外出るんじゃねえぞ」と真希に言って、彼女の頭をポンと優しくたたくと行ってしまった。
洗濯機をスタートさせて、朝食の後片づけを済ませた後、真希は頼雅の部屋の掃除をしに行った。
神谷邸に来て約1ヶ月経った。
頼雅さんからの家事についての「ダメ出し」は減ってきたと思う。
そして4日前、もうひとつの神谷邸へ浴衣を返しに行った帰りに「毎日じゃなくていいから俺の部屋を掃除してくれ」と頼まれた。
いいのかなと一瞬思ったけど、よくなければ、彼はそもそも頼まないはずだ。
だから2日おきを目処に、頼雅さんの部屋を掃除することにした。
まあ、掃除しなくちゃいけないほど散らかってはいないんですけど・・・。
彼の留守中は、私が代わりにこの部屋を守ります!
と気合を込めて掃除をした。
そしてこの日は、買いものに出かける必要もなかったので、結局真希は家から一歩も外には出なかった。
この日の晩ごはんは、5人の弟くんたちと一緒に食べた。
それは普段よくある食卓の光景なんだけど、後で帰ってくる人がいないし、作る量も少なめだ。
やっぱり物足りない。
後でまた、後片づけをしなくていいから、自室に早々引き上げたけど・・・。
遅い食事時に、彼とあれこれおしゃべりしていたことは、私の毎日の暮らしの一部になっていたんだなとこのとき気がついた。
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