第18話 未来の顔を今から作る

「あまり息止めないでね。じゃないと浴衣着てから呼吸しづらくて、酸素足りなくなっちゃう」

「あはは・・・あ、くるし・・・」


メイクを終えた真希は、日和に浴衣を着せてもらっていた。

着付けができる日和に真希は「すごいね」と言うと、日和は「仕事で時々袴とか着物を着ることがあるから」と答えた。


神谷日和は現在20歳というのに、若干7歳のときから霊媒の仕事(本業)を始めた。

こちらの神谷家の4きょうだいの両親は、すでに他界している。しかし2人とも、生前は高い霊力を持っていて、結果、彼らの子である4きょうだいも、必然的に高い霊力を受け継いだ。

その中でも長男(第一子)の頼人は、神谷一族の中でもずば抜けて高い霊力を持っていて、彼が今勤めている神社の次期神主になることが確定している。


「めいさんは結婚をしても、お仕事を続けるんですよね?」

「もちろん続けるわよ!でもね、少しペースを落とすと思う。今のペースだと子どもを持つこと考えられないし」

「なるほど・・・」


私に明るい未来なんてあるのかしら。

一生あいつから逃げ回って終わるのかも・・・。


「そんな顔してたら、そういう未来しか来ないわよ」

「え」


めいさん、私の考えてることが分かるの?!


「真希さんは私たちの幸せが羨ましいと思う?」

「それはもちろん」

「じゃあ、私たちの幸せが妬ましくて、不幸になれって思ってる?」

「そんなこと思ってない!」

「でも、なんで私だけ幸せじゃないんだろうとは思った?」

「あ・・・はい・・・」


うなだれた私に、「さっきの真希さんね、そういう顔してたわよ。だからそういう顔をしてる限り、そういう未来しか来ないって言ったの」とめいさんは教えてくれた。


「ごめんね、厳しいこと言って。私もね、小さいころはこの顔でよくいじめられたし、バレエやダンスの世界で嫉妬されたこともしょっちゅう。今でも”やり手の美人経営者”とか言われて、妬まれるネタを自分から提供してるし」


自分で喜劇にしているめいさんの言い方がおかしくて、私は思わずクスッと笑った。


「でもね、嫉妬の世界にいれば、それしか見えないのよ。いじめられたり嫉妬する人たちを見返したければ、自分が幸せになることだって、お母さんや姉や兄によく言われたの。だからそのときは悔しくて泣いても、そこに留まることはしなかった。真希さんが今は辛い状況だっていうことは、私もよく分かる。でもそれはずっと続かない。ううん、続かないようにするのは、真希さん自身にかかっているのよ」


めいさんの言葉は、私の心までズシンと響き、ちゃんと全身全霊まで届いた。

そう思わせる何かがあった。

きっとこれは愛情だ。


微笑む真希に、めいは「私はいつでもあなたの力になるわよ」と言った。


神谷家の人たちを通して、私は素晴らしい人たちに出会うことができた。

嬉しくて泣きそうになった私に、「メイクが崩れるから泣いちゃダメ!」と、めいさんと日和ちゃん、2人から同時に止められた。


やはりここは女子の力だ。

真希はどうにか涙をこらえることができた。


足袋と下駄まで借りて、真希は武臣とともに、もうひとつの神谷邸を後にした。


「みんな、ステキな人たちばかりですね」

「そうだろ?めいさんもね、つい最近ストーキングされていたんだよ」

「え!」

「それを見事に止めたのが、頼人と頼雅だったんだ。そしてそれが縁で、頼人はめいさんとつき合いだしたんだよね」

「そうだったんだ・・・」


『嫉妬の世界にいれば、それしか見えないのよ。いじめられたり嫉妬する人たちを見返したければ、自分が幸せになること』


尚更、さっきめいさんに言われた言葉が真実味を増す。


『だからそういう顔をしてる限り、そういう未来しか来ないって言ったの』

『今は辛い状況だっていうことは、私もよく分かる。でもそれはずっと続かない。ううん、続かないようにするのは、真希さん自身にかかっているのよ』


・・・そうだ。

自分の未来は自分で創るしかない。

誰かに依存したり、執着したりされたりするんじゃなくて、自分自身の力で、なりたい未来の自分を創り上げる。

私は、幸せそうに微笑んでいる未来の顔を、今から作るんだ!


「頼人の一目ぼれだったんだけど、どこに縁が転がっているか分からないよね」

「ホントですね・・・あれ?」


ここ、神谷邸だ。


「一旦家に帰るんですか?」

「うん」と言いながら、武臣さんは車から降りた。


私もそれに倣う。

武臣さんが手を貸してくれたのが嬉しかった。

そのまま家に入ると、頼雅さんが出迎えてくれた。


「た・・・だいま」


な、なんで頼雅さんも浴衣着てるの!


「おかえり。意外と早かったな」


そしてまた、平然とした顔と口調で言うし!


「そうだね。道もすいてたし。じゃあ僕は行くね」

「え!武臣さんっ?!」

「昨日真希さんを誘った後、頼雅から俺が花火大会に連れて行くって言われて・・・」

「武臣。サッサと行け」

「はいはい。邪魔者はこれで消えるね。それじゃー」


・・・やっぱり武臣さんはSだ。

どSだ!!


「それで?」

「は、はいっ?」

「おまえ、花火見に行きたいか?」

「・・・はい」


せっかくこれだけ準備してもらったし。

これで行かないって言ったら、私は完全な悪者になってしまう。

いや、ひがみ女になってしまう!

ううん、正直に言うと・・・行きたい。


頼雅さんと一緒に、花火見に行きたい!



別に俺は花火へ行かなくてもいいが。

というより本音を言えば、キレイに垢抜けたこいつを外へお披露目するのはどうかと思っているんだが。

できればここに、俺と二人でいてほしいが・・・チッ、親父がいたか。


とにかく俺は、こいつと一緒にいれれば、どこへ行っても構わないということだ。


「じゃ、行くか」

「はい!」


こうして、頼雅と真希は、2人きりで花火を見に行くことになった。

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