第11話 おまじないキス

喉渇いた・・・。


パチッと目が覚めた真希が、まず思ったことだ。

そして自分の熱が下がっていることに気がついた。


私、いつもどおり元気になってる。よかった。

逃げ回ってる間も病気ひとつしなかったこの健康体は、自慢してもいいと思う。


真希は布団から出ると、水を飲みにキッチンへ行った。




「やっぱりここで寝てたか」

「・・・まだ寝てません」

「なにひねてんだ、おまえは」

「ひねてるって・・・」


水を飲んだ後、何となく布団で寝ることが落ち着かなくて、結局昨日と同じようにリビングのソファに横になっていた。

そこに頼雅さんが来たというわけだ。


「熱、下がりました」

「そうみたいだな」と頼雅は言いながら、キッチンへ行き、水を飲む。


「眠れないのか?」

「・・・はい」

「そりゃそーだろ。今までずっと気を張って、ロクなところでロクに寝てなかったんだし」


その通りだ。

いつあいつが、私を連れ戻しに来るか分からない。

その不安が緊張を生み、いつの間にか私の睡眠は、浅く少ないものになってしまった。

メイクなんてずっとしてないから、私の目の下にできたクマは、頼雅さんに丸見えのはずだ。


「頼雅さんって、オーラを感じる他に、何か特別な霊力を持っているんですか?」


もう少し、頼雅さんと話していたい。

それなのに私ったら、こんな質問しかできないなんて・・・。

間抜けとしか言いようがないわ。


だが当の頼雅は全然気にしてないようだ。


「うーん、そーだなぁ・・オーラから記憶を読み取ることもできる。だから別におまえから聞かなくても、おまえの過去は知ろうと思えば知ることができた。だがそういうのはプライバシーの侵害だから、仕事のときしか使わない。それにこういうことは、自分の口から言うことで、初めて浄化が促される。今日、おまえには辛い思いをさせてしまったな」

「そ、そんなことありません!おかげで私、浄化されました」


たった1日で、「オーラ」とか「浄化」とか普通に会話している自分が、別世界の住人に思える。

それが面白くて、真希はクスっと笑った。


「ここにいれば安全だ。そのうちおまえは自分の部屋で安心して眠れるようになる」


声を出すと涙が出そうなので、真希はただうなずいた。


この人の優しさが、私の心に染み入ったのは、今日何度目だろう・・・ん?

そういえば頼雅さん、いつの間に私の近くに来てたの・・・?


かなり至近距離まで来た頼雅は、人差し指で、真希の眉間の上あたりを、チョンと突いた。


「な、なんですか・・・?!」

「よく眠れるだ」


「おまじない」って・・・ああ、もうダメ。

こらえきれなくなった真希は、ゲラゲラ笑い始めた。


「なんだよもう、こいつは」とブツブツ言ってる頼雅に、「す、すみません。でも・・・おまじないって言葉、頼雅さんには全然似合わない・・・」

アハハハ、すみませんと言いながら、真希は笑いを止められない。


少しして、ようやく笑いがおさまってきた真希に、ブスッとした顔の頼雅が「気が済んだか」と聞いた。


「はい・・・すみません。今日はたくさん泣いて、たくさん・・・笑いました。頼雅さんのおかげ・・・あ・・・とう・・・」


またしても、真希はパタッと眠りに落ちた。


「眉間にチョン」が、よく眠れるおまじないのわけねえだろ!

こいつ、意外と単純だな。


あどけない真希の寝顔を見て、頼雅は思わず笑みがこぼれた。

そして、真希の眉間にキスをする。


「これがホントのおまじないだ」


おまえが朝までぐっすり眠れるように、俺のオーラを少しだけ分け与える、俺流のまじない。

一種のマーキングだな、これは。


「おやすみ、真希。ありがとな」


頼雅は名残惜しそうに真希の髪に触れると、リビングを後にした。






翌朝。


「おはよ・・・」

「おはよー!」

「おせーぞ、頼雅」

「今日はみんな、早起きじゃねえか」と頼雅は言いながら、水を飲みにキッチンまで行く。

そこでは真希が、6人分の弁当を作っているところだった。


真希は手を止めて、笑顔で「おはようございます」と頼雅に挨拶をした。


「おはよ。よく眠れたか?」

「はい。のおかげです」

「ふ~ん、ねえ」

「新、うるせえだまれ」

「ここは何か言うのがお約束だろー?」

「そんな約束ねえよ」

「黙らないと頼雅に射殺されるよ」

「視線で」

「武ちゃんもいぶちゃんも、何気に言うこと激しいよなあ」

「でも頼雅ならできそうじゃね?」

「だよなー、まこっちゃん」


兄弟みんな、ダイニングテーブルを囲んで言いたい放題だ。

でもしっかり食べることは忘れない。

それにみんな、とても仲が良い。


「久しぶりに朝からみんなそろったねえ」


珍しく、6人兄弟の父親の一までいる。


「みんな朝ごはん食べたかったんだろ」

「んなこと言って、息吹はいつも、食べるより寝てたほうがいいって言ってたのに」

「それはおまえだろ、栄二!」

「あ、そうでした。すいません」

「でもさ、今日は起きたら、もう朝メシできてて、しかも弁当まであるんだぜーっ!」

「こんなの本当に久しぶりだよね。父さんまで弁当頼んでるし」

「嬉しいじゃないか、こういうのは」


そのとき、まだキッチンにいた頼雅が、真希のそばから、たまご焼きをつまみ食いした。


「なんでたまご焼きが甘いんだ?塩味だろ、フツー」

「え?そうなの?」

「俺、甘いほうが好き」と誠が言うと、他の弟たちと一まで、そーだ、甘いのがいいと誠に賛同した。


「頼雅は味オンチだからな」

「うるせーよ」

「頼雅さん、朝ごはん何食べますか?」


みんな好みがバラバラなので、真希は和洋両方用意をしていた。


「あー味噌汁・・・いいよ、自分でやるから。おまえは弁当の準備があるだろ」

「じゃあ、すみません。お願いします」

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