第8話 特別警視捜査官・頼雅
「なんだよ」
「いえ・・・。頼雅さんって、逮捕される側よりも、逮捕するほうが、絶対似合ってると思います」
「そりゃどーも」
ああ、私って、この人を呆れさせてばっかりだわ。
真希はしょげたすぐ後、ふと思い立って、頼雅に質問してみた。
「それは今朝、頼人さんが言われていた人助け業なんですか?」
「うーん・・・違うとも言いきれないし、そうとも言えない」
数秒思案した後、頼雅は話すことに決めた。
「俺は特別警視捜査官として、警視庁に在籍している」
「う・・・わ」
ということは、刑事さんよりもずっと上の階級の人ってこと?!
「でもこれは表向き。実際は行方不明者の捜索が本職だ。これは、国の偉いさんから頼まれてやってることだから、国家公務員の肩書きがあったほうが捜査をしやすいだろうと言われてもらった肩書きだ。一応警視庁の名を語るから、公務員試験は受けさせられたがな。言っとくが、不正はしてない」
「そうですか・・・」
この人、エリートだ。
確かにスーツ似合うし、頭脳明晰で賢そうだし。
やっぱり警視官って職が似合ってる・・・あ。さっき私、刑事が似合ってるって言ったばかりだけど。まあいいか。どちらも似合ってるってことで。
「神谷の家は、ずっと昔から偉いヤツに仕える神官の家系なんだ。平安時代の貴族や皇族、大きな勢力を持つ武家とか。そんなやつらに、陰陽師や僧侶として、いろいろ助言をしたり、霊や妖怪退治をしていたそうだ」
「そ、そんな昔からですか?!」
「ああ。神谷神社というのもあったが、平安の終わりごろに神社は焼けてなくなった。それで一族は散り散りになったが、現在まで子孫を絶やすことなく生き延びている。で、俺たちは、その力を国に有効利用させる代わりに、国や各界の偉いさんたちから恩恵を受けてるわけだ」
「例えば?」
「俺で言うなら、行方不明者の捜査をする代わりに、国から多額の金を受け取っている。特別警視官という役職も、捜査時には有効利用させてもらってる。もちろん職権乱用はしてない」
「あ・・・なる・・・ほど」
「後は、税金や水道費などの控除かな」
「ええっ!!」
いけない!つい大きな声を出してしまった。
真希は慌てて口をふさぎ、「すみません」とモゴモゴ謝った。
「妥当な反応だよな」
頼雅のニヤけた顔を見て、真希は、また恥ずかしくなった。
「先祖が守り続けた土地は神聖だ。そして、そこから沸く水や温泉も神聖なものなんだ。その力を維持することと、保護するために、寄付という形で、各界の偉いさんが金をくれる。その金で、俺たちは土地や水を守り、自分の力を維持する」
「代わりに、霊力を使って人助けをする」
「そういうことだ。だが一族の中には、本業と俺たちは言ってるんだが、それをしてない者も大勢いる。もちろんそいつらは恩恵を受け取っていない。俺は本業のみだが、弟たちは副業として、自分がやりたい職に就きながら、時々本業を手伝ってるし、逆にいとこは本業に比重を置いて、副業は時々やっている者もいる。親父は小説家を本業として、一族の人助け業には一切関わってない。ただし親父は霊力は高いほうだし、家の保護に一役買ってもらっている。それに親父の小説のネタは、俺たちの本業で、実際手がけたものが基になってるはずだ」
「やっぱりそうですよね」
先生のオカルト小説は、リアルだと評判高いけど、それもそのはず。
今その理由が判明した。
「それで頼雅さんは、どんな霊力を持っているんでしょうか」
それは純粋な好奇心から出た質問だった。
純粋に、単純に、この人のことを知りたいという好奇心―――。
少し間を置き、頼雅は言った。
「俺は、生き物のオーラを感じることができる。気配とか雰囲気とか、そういった言葉に言い換えてもいい。頼人は生き物のオーラの匂いを嗅げるらしいが、どんな匂いがするのかは俺にも分からん」
「へえ。いろいろな匂いを嗅ぐと、鼻が大変そう」
「それは自分でコントロールできる。それに霊力は基本、仕事のときしか使わない」
「あ、そうですよね。もう私ったら。アハハ」
またバカやってしまった。
こいつの反応、いちいち可愛いんだけど!
それに現実離れした俺の現実話を、現実として受け止めている。
そしてこの表情や受け答え。
俺がどれだけこいつを見て癒されてるか、分かってるのか。
いや、無意識にやってるからこそ、余計可愛く思うんだろうな。
やっぱりこいつに話してよかった。
現実の一部だけでも、こいつと共有できてよかった。
「人は、本人のオーラに覆われて生きている。そして人は、感情や気持ちを分かち合って生きている。そのときにオーラも分かち合っているんだ。それが滞りなくできていれば、調和が取れている状態だ。だが、分かち合いのバランスが崩れたら、生き方にも影響が出てくる。例えば、自分と、自分以外のオーラに覆われて生きているやつは、誰かに依存しているか、過度に執着を持たれている」
「その誰かって、自分以外のオーラの人?」
「そうだ。依存か執着は、どちらのオーラが多いかによる。自分のオーラが多ければ依存、逆は執着だ。だから人は、自分以外のオーラを受け入れてもいいが、それを過度に取り込んではいけない。でなければ、自分の人生を生きていけなくなるからだ。おまえには男のオーラがかなり憑いていた。浄化でだいぶ取り払ったが、まだ少し残っているな」と頼雅に言われて、真希はドキッとした。
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