第2話 幼馴染の正体は!?
「やっとくって、……何を?」
「トボケたこと言っちゃってえ。さっきからちいっとも鎮まらないじゃん。これ絶対朝の生理現象じゃないよね」
そう言いながら篠崎さんは、盛り上がっている俺の股間を布団の上からピンと指で弾いた。
どういうわけか、オレの心とは裏腹にその部分はずっと硬いままだ。
「で、でも、そんな……悪いよ」
「そんなこといってるから、二十歳にもなって童貞なんでしょ。それにね」
彼女の声が急に低くなる。
「いつ気づいてくれるかなーって思って待ってたんだけど、全然気づいてくれないから言うね。あたし、小学生の頃からずっと耕太郎くんのことが好きだったんだよ」
「えーっ!」
「……だってぇ、そうじゃなかったら、いくら泊まるとこがないからって男の子のウチに来たりしないよ」
今まで威勢の良かった篠崎さんがもじもじと小さくなっている。
じゃあ、なんだ? オレたち、ずっと両想いだったのか!?
もしオレに告白する勇気があったら?
小学生のときも、中学生のときも、高校になってからも、それにオレが最後に会いに行ったあの夜だって、もしオレに勇気があったら?
いや、今だって、遅くはないぞ!
「お、オレも、ずっと篠崎さんのことが好きだった!」
オレは、篠崎さんの両肩をぐっと掴んで抱き寄せた。
予行練習は、おとといにばっちり済ませてある。避妊具(ゴム)も買ってある。
もしかして、昨日上手くいかなかったのは、それは今日のために神様が取っておいてくれたのかもしれない。
「こ、耕太郎くん、ちょっと待って!」
篠崎さんが、慌ててオレを押しのけた。
「あ、あの、シャワー浴びたいの。それから、……いいでしょ」
篠崎さんは、オレの腕をすり抜けてバスルームに消えていった。
おー、これは予習したところに出ていたぞ。しかし、実際に目の当たりにすると可愛いにも程がある。
さっそく昨日着ていたコートを探って避妊具を確保した。
メガネを探したけど、やっぱり見つからない。
ホテルに忘れてきた可能性が一番高いけど、飲み屋に忘れてきたのかもしれないし、その前のレストランかも……
しかし、もうそんなことはどうでもいい。
とうとう、オレも童貞にさよならする日が来たのだ。
それも、あの憧れの篠崎さんとだ。
彼女が、近所に引っ越してきた日を今でも覚えている。
いじめられていた弟を守るため路地裏から颯爽と飛び出してきた、大きなひまわりの付いたワンピース。日焼けした肌と肩口で揺れる髪。
それから、オレは気が付くといつも篠崎さんの笑顔を探していた。
その彼女が、このバスルームの向こうにいる。
シャワーの音が聞こえてきた。
いつも、オレが入っているあの風呂場で、篠崎さんが体を洗っているのかと思うと……昨日ピクリともしなかったオレの股間は、痛いくらいに膨れあがっていた。
その時だった。
テッテレレーテッテッテッテー
スマホがなった。
こんなときに一体誰だと思い、見えない目を画面ゼロ距離まで近づけると――母親だった。無視しようかとも思ったけど、今日一番の功労者なのでその功績を称えて出てやることにする。
「あ、コウちゃん? おかあさんだけど」
「ああ、何か用?」
「何か用って、昨日コウちゃんの部屋に来たでしょ、篠崎さんトコの」
「あ、ああ、びっくりしたよ、ああいうことはちゃんと事前に教えてくれよ」
「ちゃんと留守電にいれといたのよ。コウちゃんが聞いてなかったんでしょ。いつ電話しても出ないし」
「留守電なんか聞かないよ。LINEにしてくれよ」
「おかあさん、LINE苦手だもん。まあ、とにかくお願いね。廉君、K大学の医学部受験するんだって、すごいわねー」
えっ? 廉君?
「びっくりよねー。K大医学部なんて、あんたたちの高校で初じゃないの?」
「あの、ええと、こっち来てるの、廉……なのか? 篠崎さん、ていうかお姉さんのほうじゃなくて?」
「何変なこといってるのよ、大学受験にお姉さんが付き添わないでしょ。それにかすみちゃんは今、名古屋じゃない……ちょっと、コウちゃん? もしもし? もしもし? 聞いてるの?」
……?
どういうことだ?
オレは頭が痛くなって、電話を切った。
篠崎さんには、2歳年下の弟がいる。
廉、という名前だ。
チビでいじめられっこで、いつも篠崎さんやオレの後ろに隠れていた。
高校では、オレと同じ吹奏楽部に入ってきた。三年生のオレは一学期が終わってすぐ引退したけど、同じテナートロンボーン担当になったんで下心込みでチョコチョコ面倒をみてあげてたっけ。
テナートロンボーンはリーチが必要な楽器だから、最初は「小柄な廉で大丈夫かな」と心配してたんだ。でも、見た目よりガッツがあるらしくオレの卒業の時には結構いい音を鳴らしていた。
廉は確かに今年受験の歳だ。こっちの大学を受けることもあるかもしれない。
でもオレの部屋にいたのは、どう見ても女の子だったぞ!
ただ、メガネのない今のオレでは、「どう見ても」といっても、そんなにはっきりと見えていたわけじゃない。
髪は長かったし、女の格好してたし……いやまてよ、それって女であるという証拠にはならないんじゃねぇ?
ああ。もう、二日酔いの頭は物事を深く考えるのには向いていないんだ!
シャワーの音が止んだ。
バスルームのドアが開いて、自称篠崎さんが顔を出す。
「耕太郎くん、バスタオル借りていい?」
ぴょこんと飛び出した顔に目を凝らす。でもやっぱり、メガネがないオレにはうすぼんやりと輪郭が見えるだけだった。
「ああ、いいけど、……お前、まさか、廉、なのか?」
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