ドMな俺が推している美人で暴力系ツンデレヒロインな立花飛鳥を負けヒロインにはさせはしない

高野 ケイ

第1話

 立花飛鳥(たちばなあすか)という少女がいる。彼女は成績優秀、容姿端麗な完璧少女だ。クラス内どころか学校内でも五本の指に入る美少女だろう。


性格もほとんどの人間には優しく、世話好きで人望も厚い。だが、たった二人にだけ乱暴になってしまう相手がいる


その相手は俺と彼女の想い人である佐藤真(さとうまこと)である。彼女はおそらくツンデレなのだ。しかも暴力系の……本人にも聞いてみたが、好きな人の前だとつい恥ずかしくって暴力を振ってしまうらしい。病気かな? でも素直になれなくて悩んでいる彼女はとても可愛らしいと俺は思う。


 今日も彼女の想い人である佐藤君の周りには女性がたくさんいる。義理の妹の佐藤美琴、二学期という中途半端な時期に転校してきたミステリアス系女子雨宮輪舞(あまみやろんど)に囲まれて登校しているのが見えた。そしてその一歩後ろにいるのが立花飛鳥(たちばなあすか)である。今日も家の前で待っていたがプライドが邪魔をして声をかけられなかったのだろう。しょんぼりとした顔で歩いている。


 小学校からずっと佐藤君と一緒に登校していた彼女だったが義妹の美琴ちゃんが現れてからは三人で登校することになり、佐藤君と美琴ちゃんが仲良くなるにつれ、徐々に一緒に登校することは減り、今のように声をかけられずにとぼとぼと後ろを歩くことが増えたのだ。彼女は俺をみると一瞬笑顔を浮かべ、すぐに真顔になってこちらに駆けだしてきた。



「おはよう、壮太」


「おはよう、飛鳥様」


「飛鳥って呼べって言っているでしょ」



 俺の挨拶に彼女は真顔を一転、眉をひそめた。もちろんわざとである。というよりも彼女は名前で呼べというが、気軽に異性の名前を呼び捨ては難しいものだ。


 しかし、いつものあれがこない。まだ足りないようだ。俺は腕に巻いてある輪ゴムを触りながらどうすればいいかを考える。


「しかし、佐藤君と一緒に登校しなくていいのか? どんどん先に行っちゃうぞ」

「ふんっ、あんなやつどうでもいいのよ!! それよりも早く行くわよ」


 俺の言葉に何やら怒ったように言って彼女はどんどん先にいってしまう。どうやら選択肢を間違えてしまったらしい。あわてて俺は彼女を追いかけて一言。


「実は俺と一緒に登校したいだけとか?」

「そんなわけないでしょ、仕方ないからあんたと登校してあげてんのよ、勘違いしないでよね!!」

「はいはい、ツンデレツンデレ」

「うっさいわね、この馬鹿!!」

「ごはぁっ!!」



 彼女の拳がにやにやと笑う俺の鳩尾を直撃して体に痛みが走る。嗚呼、恍惚……罵倒と共に放たれる一撃は格別である。やはり、朝の一発がないと気合が入らないものだ。

 そう……俺はドMなのである。暴力系ツンデレである彼女を挑発してご褒美をもらう。それが俺の日課なのである。自己紹介が遅れた。俺の名前は富岡壮太(とみおかそうた)ごく普通の高校二年生だ。






 暴力系ツンデレ女子とドM系男子の俺なら相性がいいと思うだろう。正直俺も思う。だが彼女が俺にツンデレをみせるのは俺の事を好きだからではない。彼女の想い人は佐藤君なのだから……なぜそれを知っているかって? 


 それは小学三年生の時の話だ。ある日の放課後教室で、一人彼女が泣いているのをみてしまったのだ、泣いている彼女に声をかけた俺は事情を聞き、佐藤君への彼女の想いを、そして不器用な彼女の悩みを聞いて感動してしまった。当時輪ゴムを腕に巻いてパチンと放って返ってくるときの痛みで恍惚を感じていた俺とは比べ物にならないくらい大人だと感銘を受けてしまったのだ。そしてその感情は尊敬へと変わりやがて恋心へと変わった。

 話を聞いたからか、俺と彼女の仲はどんどん良くなってきた。彼女の佐藤君への想いを聞くのは中々つらいものがあったが、彼女の想いの深さを尊敬した。あとぶっちゃけM的にはかなわない恋っていうのも常に寝取られているみたいで興奮した。

 まあ、そんなわけで俺は彼女の話を聞いてから彼女が佐藤君と付き合えるように色々手伝っているわけだ。そして彼女的にも俺は相棒みたいな感じになったのか、徐々に俺にもツンデレをみせてきたのだ。まあ、俺の作戦は全部失敗に終わっているんだけどね。

 今朝も佐藤君と登校できなかったようだし、新しい作戦を考えなきゃなぁと思う。教室についた俺達は少し雑談をする。



「それで、こういう服どうかしら? やっぱり男子ってこういうのが好きなの?」

「うーん、飛鳥はスタイルいいからなぁ、ワンピースよりも、すらっとした足を強調したパンツスタイルもいいかと思うぞ」



 スカートじゃ難しくてもパンツなら蹴ってもらえるかもしれないしね。俺が邪な想像をしていると彼女はジト目で俺を睨む。



「それはあんたの趣味でしょ……まあ、どうしてもっていうなら今度遊ぶ時履いてきてあげてもいいけど……」


 そう言って顔を赤らめる飛鳥は本当に可愛い。俺じゃなくて佐藤君の好みに合わせればって思うんだろうけど佐藤君の好みはロリ巨乳なんだよね。だから「とりあえずパット詰めようぜ」って言ったら飛鳥にぶん殴られてしまった。中々の破壊力で恍惚でしたね。


「おはよー」



佐藤君も遅れて学校にやってくる。女の子二人と登校している彼にクラスメイト達は羨望のまなざしを向けている。いいなぁ、俺もこれくらいの注目を侮蔑のまなざしで向けられたいものだ。それはともかく、この光景をあまり飛鳥には見せたくないよね。



「ちょっと行ってくるね」

「えっ、待ちなさいよ」



 俺は飛鳥に断りを入れて佐藤君の方へ歩きだす。気合を入れるために輪ゴムをパチンと放つ、適度な痛みが心地いい。


「野生の壮太が現れた。ポケモンバトルしようぜ」

「ポケモントレーナーとして、目が合ったら対戦は避けられないね」



 俺のセリフに佐藤君はノリノリでスイッチを出す。女性二人の「邪魔するな、殺すぞ」って目線がとても気持ちいいね。

 ちなみに俺と佐藤君は仲良しである。まあ、小学校一緒だったし、普通にゲーム友達なんだよね。佐藤君も恋愛に関して鈍感ラブコメ難聴クソ野郎なだけで、友達としては無茶苦茶いいやつなのである。



「ふ、この日のために育成したポケモンの力をみせてあげよう、負けたほうジュースな」

「いいね、僕だって負けないよ」

「真兄ちゃん、ミミッキュ可愛いね」

「美琴、ごめん。手の内がばれるから黙って」



 佐藤君に声をかける美琴ちゃんだったが、ゲームに集中した彼は勝負に夢中である。なぜか美琴ちゃんは俺を睨んできたので、ニコッと笑い返す。ああ、この敵意に満ちた目線、恍惚ですね。

 結局ポケモンバトルは俺の糞みたいな耐久ポケモンによって引き分けになった。先生が来る前に中断したのだ。没収されちゃうからね、仕方ないさ。それに没収されるかどうかのぎりぎりのスリルもたまらないよね。





 チャイムが鳴りお昼の時間である。佐藤君は美琴ちゃんと、お昼に行ってしまった。今日の争奪戦は彼女の勝利の様だ。1分後に雨宮輪舞あまみやろんどさんが隣のクラスから、佐藤君を誘いに教室に迎えに来ていたが彼がいないとわかると悲しそうな顔をして自分のクラスに戻っていった。

 そして飛鳥はというと俺の正面でお弁当箱を広げている。ちんたらしてるから佐藤君がとられちゃったよ……



「何よ、私の顔に何かついてるの? それとも私が可愛すぎるから見惚れちゃった?」

「まあ、飛鳥様は可愛いっていうより美人かな。街で会ったら俺だったら二度見するくらいだよ。それはともかく、今日はフリーデイだったのにいいの?」

「なっ、適当な事いわないでよね、馬鹿!! あと飛鳥様じゃなくて飛鳥!!」



 俺の言葉に飛鳥が顔を真っ赤にして罵倒してきた。ああ、快感!! ちなみにフリーデイとは佐藤君とご飯を食べる順番である。暗黙の了解で月曜が美琴ちゃん、火曜が飛鳥、水曜が輪舞さん。木曜が俺、金曜日が早い者勝ちのフリーデイとなっているのだ。ちなみに飛鳥と俺の順番の時は三人で食べている。そうすれば飛鳥が二回佐藤君と食事できるからね。飛鳥が笑顔で佐藤君と話しているのはちょっと胸が痛いけど、これはこれで気持ちいい。


「ほら、今日はあんたの分も作ってきたんだから感想を聞かせてよね」

「おお、ありがとう。わー、俺の好物のハンバーグじゃん、やったね」



 彼女が渡してきたお弁当を開けた俺は歓喜の叫びをあげた。彼女はいつも手伝っているお礼なのか、こうして時々お弁当を作ってきてくれるのだ。前日に「何が食べたいの?」とラインが来るのである。好きな人の手作り弁当。しかも、元々料理が上手とくればもはや最高である。俺はMだけど、普通に親切にされたらそれはそれで嬉しいのだ。しかもこのハンバーグは俺の好きな照り焼きソースじゃん。



「黙って食べてないで感想をよこしなさいよ、どうだった?」

「うーん、控えめに言って100点かな。ポケモンなら6Vだね。これだったらすぐお嫁さんになれるよ」

「は? お嫁さん? 何言ってんのよ、あんた馬鹿じゃないの? まあ、あんたがどうしても食べたいって言うならまた作ってきてあげてもいいけど」 



 俺の言葉に彼女は顔を真っ赤にさせて、俺を罵倒する。罵倒は最高の調味料だね。ごはんが進むというものだ。でも本当にいいお嫁さんになれると思うよ。俺は顔を真っ赤にしながら少しにやけている彼女を見ながら思う。誰のお嫁さんになるのを想像しているんだろうね?



「で、佐藤君との恋愛は進んでるの? 俺とばっかりいるような気がするけど」

「う……うっさいわね、これでも色々考えてるのよ」



 俺の言葉に飛鳥は言葉をつまらせる。最近というか中学らへんからこんな感じなんだよね。高校に入り、佐藤君はますますモテるようになっているし、ライバルも増えてきている。俺としては彼女と一緒にいれて嬉しいのだけれど、彼女としては不本意だろう。だから俺はとっておきの策を実行しているのだ。



「今度の文化祭に佐藤君を誘いなよ。そうすれば少しは意識するんじゃないかな?」

「え……?」


 我が学校には不思議なジンクスがある、文化祭を一緒に回った男女は結婚できるというのだ。もちろん高校生の恋愛だ。そんなものはジンクスにすぎない。でも意識をさせることができるはずだ。


「でも、真の事だからだれかと一緒に……」

「それはないんだなぁ、なぜなら佐藤君は俺と、飛鳥の三人で一緒に回る約束をしているからね、他の女の子との約束は断ったってさ。そして偶然にも今日の放課後に佐藤君とゲームをする俺は、佐藤君に女の子と回る事になったから一緒に回れなくなったんだって伝えるつもりなんだよね。そんなときに佐藤君に二人で回ろって言えば二人で回れるでしょ」

「え、そんなの聞いてないわよ、それにあんたに一緒に回ってくれるような女の子がいるの?」



 佐藤君を騙してしまうようで悪いがそこは男同士だ。理解してくれるだろう。飛鳥に気を使わせないように俺はあえておどけてみせる。


「ここにいるじゃん、エア彼女のアリスちゃん、クールで可愛いんだよ。喋ってくれないのと、触れないのが欠点だけど」

「でも……」


 言いよどむ彼女に俺は激を飛ばす。



「自信を持てよ、立花飛鳥!! 俺は、俺が推している美人で暴力系ツンデレヒロインなお前を負けヒロインにさせたくないんだよ」

「あんたはそれでいいの……?」

「当たり前だろ、俺はずっとお前を応援してきたんだからさ。俺はお前がどれだけ頑張ってきたかを知ってるんだぜ。それにお前みたいな美人で世話好きで一緒にいて楽しいやつを振るやつなんていないよ。放課後佐藤君とゲームする約束してるからさ、俺が合図したら下駄箱で待機して文化祭に誘いなよ」

「そっか……うん……わかった、私は……私の好きな人を文化祭に誘うわ」



 俺の重ねる言葉に彼女は迷っていたようだがようやくうなずいた、緊張しているのか、いつもより声に元気もないし、ツンデレも暴力もなかったが彼女の目には強い決意があった。






 放課後佐藤君とゲームをして文化祭を一緒に回れないこと伝えた俺は、忘れ物があると言って教室に戻り、なんとなく、窓から校庭を見下ろす。今頃飛鳥は佐藤君を文化祭にさそっているんだろう。

 ああ、名前も知らないカップルが手を繋いでいる。佐藤君と飛鳥もいつかあんな風に手をつなぐのだろうか? そしてキスをして……想像すると胸がずきりと痛む。何でだろう。ドMな俺は痛みが好物なはずなのに全然気持ち良くない。気分転換にスマホをポケモンをしようと画面を開くが目が霞み水滴がモニターに流れる。なんでだろう、とっくに覚悟はしていたはずなのに、俺はドMだから痛みは好きなはずなのに……改めて理解してしまった。俺は自分が思った以上に立花飛鳥のことが好きだったのだ。気分転換に輪ゴムをパチンとやるが鈍い痛みを感じるだけだ。

 俺が泣いていると教室の扉が開けられる。ああ、まだ誰か放課後に残っていたのか。誰だかわからないけどカッコ悪いところをみられちゃったなぁと思う。せめてもの抵抗として振り向かないでおこうと思う。そうすれば情けない顔をみられないからね。



「富岡壮太君、よかったらわたしと一緒に文化祭を回ってください」



 てんぱっていたから最初は何を言われたのか分からず俺はほうけているだけだった。俺の腕の輪ゴムがブチっと切れて床に落ちるがやたらスローモーションに感じた。






 私は佐藤真が好きだ。いや、好きだと思っていたというべきか。今思えばこの気持ちは家族同然の幼馴染が誰かに取られるのが嫌だという、幼稚な独占欲だったのだろうと思う。


 小学校3年生の時に真に冷たい態度を取られた私は一人教室で泣いていた。そんな私を慰めてくれたのが彼……富岡壮太だった。


 彼は不思議な少年だった。私は自分でもわかっているが性格が悪い、恥ずかしくなったりするとすぐに罵倒や、手が出てしまうのだった。何とか治そうとして努力をしてきたが、やはり性格なのか油断するとやらかしてしまうのだった。だから私とずっと一緒にいてくれる人なんて家族くらいだと思っていた。彼と会うまでは……

 壮太はこんな私とあの日からずっといてくれた。私がつい罵倒や暴力をふるってしまっても笑いながら傍にいてくれたのだ。いつからか素の自分を嫌わない彼を、どんなときでも私の味方でいてくれる彼を、私は好きになっていた。

 この気持ちに気づいたのは中学の頃だった。でも彼が私と一緒にいる理由は、私が真の事を好きだと思っているからだ。彼が私と一緒にいるのは私が真を好きだという秘密を共有しているからにすぎない。彼は言っていた。「誰かを想い続けるその姿は美しい」と、私が実は真ではなく彼の事を好きだと知ったら彼は私の元をさってしまうのではないだろうか? 私はずっとそう思って行動をできないでいた。

 でも、彼がなんとなく言った文化祭を女の子と回るっていう言葉に私は胸がずきりとした。それは冗談だったけど、いつか本当になってしまうかもしれないのだ。だから私は覚悟を決める事にした。何もしないで後悔するよりも行動をしようと思う。だから彼が待機しているであろう教室の扉を開けた。

 彼の後ろ姿を見た私は意を決して言葉をかける。



「富岡壮太君、よかったらわたしと一緒に文化祭を回ってください」



 緊張で震えた私の言葉に振り向いた彼はなぜか涙を流しながらきょとんとしていて、その少し間の抜けた顔がとても愛おしく感じた。



「え、俺でいいの? だって、飛鳥は佐藤の事が……」

「馬鹿……私が好きなのはあんたよ、ううん……馬鹿は私よね……やっぱり言葉にしないと伝わらないわよね」


 一応それなりにアピールはしていたがやはり気づかなかったようだ。まあ、本当に素直になれない自分の性分が憎い。 

 毎朝、彼が私を心配そうにみているのがわかったから、朝だってわざと真が通り過ぎるのを待って登校して、彼と合流していた。お弁当だって彼の好物を聞いて練習した。彼は私の趣味を料理と勘違いしているようだが、きっかけは彼に食べてもらいたいなという思いからだった。

 でも私の気持ちはやっぱり伝わっていなかったのだ。彼が文化祭を真と回れといったとき悲しい気持ちになった。それと同時に『お前を振るやつなんかいないよ』という言葉に希望を持った。それは彼なりの激励だったかもしれないけれど、私が踏み出す勇気をくれた。

 だから今だけは頑張って素直になろうと思う。恥ずかしさをこらえようと思う。そして私は言葉を紡ぐのだ。私が彼をどれだけ好きなのかを。私の精一杯の言葉に彼は照れ臭そうに、そして嬉しそうに笑ってくれた。








 朝になり俺は家の前で恋人の飛鳥を待っていた。まだ実感がわかないんだけど彼女が本当に好きなのは佐藤君ではなく俺だったらしい。放課後に文化祭に誘われた後、見回りの先生が来て追い出されるまで延々と俺の好きなところを言われたので、帰り道にお返しとばかりに俺が彼女の好きな所を延々と言った結果、両想いじゃんとなり付き合うことになったのだ。ちなみに好きなところを彼女に伝えているときに5回ほど殴られ罵倒されたのだがこれまでの人生で一番気持ちよかった。



「おはよう、壮太」

「おはよう、飛鳥様」

「飛鳥って呼んでよ……馬鹿」



 そう言って彼女は甘えるような声を出して、俺の腕のそでを引っ張る。こういう罵りもまたよいね。そしてほほ笑みあうと俺たちは手をつないで登校する。



「あ、二人やっと付き合ったんだ。富岡君なら安心だよ、飛鳥よかったね、想いが叶って」

「え、どゆこと? 飛鳥は佐藤君に相談してたの?」

「知らないわよ。私誰にもいってないもの」

「いや、だって幼馴染だよ、ずっといっしょにいたんだから飛鳥が富岡君の事好きだったことくらいわかるよ」



 通りがかった佐藤君の言葉に飛鳥は「うー」と唸りながら顔を真っ赤にして俺はポカポカと殴っている。ああ、気持ちいい。そして痛みが夢じゃないことを証明してくれる。後になって知ったことだが彼女の想いは周りには筒抜けだったらしい。クラスではいつ俺たちが付き合うかかけていたやつもいたようだ。それにしても鈍感ラブコメ主人公は俺の方だったようだ。


「文化祭どこまわろっか」

「壮太と一緒ならどこでもいいわよって、何にやにやしてんのよ」

「いやぁ、顔を真っ赤にしながらそっぽ向いている飛鳥は可愛いなぁって思って」

「うっさい……だってうれしいんだもん」


 そう言って彼女は顔を真っ赤にしてうつむくのだった。あれ? 罵倒も暴力も来ない!!


「私がんばるから……今までひどい事言ったり、殴ってごめんね。恥ずかしいけど我慢する!!」

「いや、むしろ罵ってほしいし、殴ってほしいんだけど!!」

「え? なにそれ?」

「いやぁ、殴って罵倒してくれる飛鳥も好きってことなんだけど」

「みんないるところで好きって言わないでよ、馬鹿」

「ごはぁ!!」

「ああ、ごめん、大丈夫!?」



 顔を真っ赤にした彼女の拳が罵倒と共に俺の腹に入った。たまらないね!! 彼女と共に歩く俺の腕にはもう輪ゴムはない。もっと気持ちいい痛みをくれる人ができたから。 


 こうして俺は『ドMな俺が推している美人で暴力系ツンデレヒロインな立花飛鳥を負けヒロインにはさせはしない」事ができた。そして彼女が負けヒロインになることはもう一生ないだろう。





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