第89話 昭和50年代前半の地方の小学五年生のダイエット。
さて。
三年の時に「肥満児教室」なるものに参加させられたワタシですが、……思い出しました。
五年生はダイエットの年だったのです。
思えばこれはかなり後のメンタルにあかんかったのではないでしょうか。
何せこの時代ですよ。昭和50年代前半。それで十歳だか十一歳だかのガキがダイエットですか。過去の自分に言いたい。そんなこと考えるなと。
たぶんきっかけは四年生くらいの頃から読み出していた「暮しの手帖」の二世紀三〇巻台の辺りに載っていた「やせる教室」だったのではないでしょうか。
この雑誌は米国のグッドハウスキーピング誌の翻訳記事もよく出していました。米国とダイエット! 今でもそうですが、まあ実に判りやすい組み合わせです。
これがまた読みやすかった。そんで「低炭水化物ダイエット」の方法が載っていたんですね。いやー、今でもよくその方法は出てきますな。炭水化物は減らして、あとは好きに食べてもいいよー、という類いです。
それに感化されたのか、これまた婦人雑誌に載っていた80カロリー・20点法のダイエットを始めたんですわ。母親がまた実に協力的で!
80カロリー×20点→1600カロリーです。一日。
実際のところ、それ自体はなかなか上手くいったのですよ。給食の献立表と普段の食事を付き合わせて。
だけどそれまでふんだんにお菓子とか食べてた奴には果たしてどうだったんでしょうね。何せもっと小さい頃は買い置きのおやつが何もないと母親がドーナツもどきを揚げてくれて、その上で夕食があった家ですからね。掘りごたつに身体半分突っ込んでマンガ読みながら「カール」を一袋食べてしまうような奴でしたよ。
だからまあ、やれば痩せるのは当然ですよ。2~3ヶ月で7キロ痩せたんですね。
その間の給食は小型のパンが三枚になっていました。で、ワタシは先生に許可を得て三枚のうち二枚残して家にもって行き、一枚を16分割くらいにしてフォークでおやつにして食べる、という何というか実に微妙にやばいことやっていた訳です。
パン自体の味を楽しむようになったのはこの頃からじゃないですかね。
ただその7キロくらい痩せた時点で母親が言う訳です。「もういいんじゃない?」と。
となるとリバウンドです。あっと言う間。あの努力の日々は何なの、というくらいにあっと言う間でした。それからは「まあいいわ」と太いままの日々が続きました。
……母親に関しては、思い返すと色々と。
確かに出しっぱなしだったとはいえ、日記帳に書き綴ってたポエム! を褒められた時の気持ちとは。
そもそもそのワタシの書いていた机は父親のお下がりだったし、まだ建て増しの内装ができていなかった時代なのだけど、中学に入った兄貴には直接の窓は無いとはいえ八畳の部屋、ワタシは寝室の横の廊下の突き当たりがパーソナルスペースだった訳ですな。
それでも何とか個室の代わりだった部分ですよ。そこに置いてあるものを勝手に読んでそれを悪気も無く褒めるのはどう? とか。
そもそも子供が太る可能性大なのに菓子にさして制限加えなかったよね? とか。
何というか。もやもやは当時からあったと思います。
しょーじき、この時何でダイエット止めなかったんだ、と思います。やりたいと思ったことはやらせる、という向きはありましたが、人より早めの思春期成長段階にあるガキにさせるのはどうでしょう。
というのと。
たぶんワタシは無意識に「太っていてもいいじゃない(母親にとっては)可愛いよ」的な普通の母親が言いそうな台詞を求めていたのだと思います。
が、無理だったことは、彼女の美的感覚を考えると。
ウチの家族はそれぞれともかく何か美的感覚に関して、どーしても譲れない線というものが存在していたようです。
親父はPLAYBOYのヌードカレンダーを何の悪気も無く子供も居る寝室に掛けてましたし、当時は毎週平凡パンチとプレイボーイを買ってました。週刊朝日やらの雑誌と並行して町内の本屋に取り置きを頼んでいたくらいですから。
結果として、ワタシの目に触れるのは、「綺麗なお姉さんの身体」です。そして現実は。これはもう美的原体験の様なものです。
その後ワタシは大学生の時にまじでダイエットして、相当痩せました。
奇跡の様に9号着られたりしましたが、同時に生理止まったり認知の歪みが生じたり、明らかな摂食障害起こして、寛解するのに相当長くかかった訳ですが。
メンタルのゆらぎが最初に起こったのが六年生だったという辺り、もしかしたらこの五年生の時のダイエットが作用しているんではないかと思います。
あくまで推測ですが。
医者にでも指導されない限り、こんな成長期にダイエットなんぞしてはいけません。きっぱり言いたいです。
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