第41話 2046年11月(竜神池3)

 広い和室、ソレは近代的なビルには似つかわしくないビルの最上階にある。

 多国籍企業『NOA』香港に拠点を移し20年が経とうとしている。

 その和室から、ほとんど外出することなく過ごしている少女、それが不死者『命』である。

『NOA』のTOPであり、かつては12人の遺伝子操作を施された側近を従えていた数百年を生きる少女。

 戸籍を変え永遠を生き続ける少女は一人の少年と恋に落ちた。

 少年は不死を拒み、人としての短い生を選んだ。

 少女に残ったのは、ただ一人、今も従う側近と膨れ上がるだけの企業だけ…。

 醜く膨れ上がった醜悪さは、人のソレと変わらない。

『暴食』それは大罪に位置する罪のひとつである。

 その対象となる悪魔は『ベルゼブブ』ハエの王である。

 また別の読みでは『バアル・ゼブル』気高き主。

「私はどっち?」

 ウィルス、DNA、細菌、それらを好奇心のままに、かき混ぜて人食いの化け物を生み出した。

 あの化け物はクールー病を発症しニタニタと笑いながら人を喰らう出来損ないの進化の果て。

 加速度的に新陳代謝を繰り返し人を捕食し続ける。

 瓦解していく身体を引きずりながら人を求め続ける…獲り込むように…抱きしめるように、その姿は醜くも悲しく、涙のメイクを施したピエロのようだ。

 笑われるために存在するかのような道化のような化け物。

 だが…その道化は人に牙を剥く、危険な存在。

「広い部屋に独り…寂しさを超えて憐みを感じるね」

『命』の前にズズズッと這い出るように出てきた少年。

「トリック・スター…長生きすると礼儀を忘れるようね」

「不死は、お互い様だろ、僕は制限付きだしね」

「フッ、何が制限だ、宇宙を想像し続けるような存在に、何の制限が掛るというの?」

「キミが考えているほど自由じゃないのさ、それに想像とは違う…コピーして見守るのさ」

「見送る…の間違いだろ」

『命』が目を細めて『トリック・スター』をけん制する。

「何もしないよ…今は」

「で、何をしに来たの」

 口調こそ穏やかにはなったが、警戒は怠っていない『命』

「馬脚…ヴァリニャーノがキミの想い人に会いに行ったよ」

「……ユキに…そう」

「いいのかい?」

「構わないわ」

「手駒の死期…最後は、自由にさせるってことかい?」

「口を慎め‼ 観測者風情が、神を気取り、下界を覗き見しているつもりか‼ 殺すぞ…」

「そう、僕は時から外れただけ…条件次第で殺せる、ソコがキミ達、姉妹と違うところだ…殺されないうちに失礼するよ、キミは優しいからね、色々と目溢しする…それが裏目にでないといいけどね、忠告のつもりだよ」

『トリック・スター』がはめた指輪に吸い込まれて消えていく。


「ユキ…私と生きてはくれないのね…」


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