第36話 2037年9月某日
「プリオン病…クールー病」
命が資料に目を通し呟き、ヴァリニャーノに尋ねた。
「共食いの危険性は人に限ったことではないと思うけど…SMPにも当てはまるかしら?」
畳張りの部屋、30畳ほどの中央に座るヴァリニャーノ、その足の関節は後方に折りたたまれるように奇妙に曲がっている。
奥に座る少女『命』永遠の生を得た支配者である。
多国籍企業『NOA』事実上の女帝、もちろん公の場からはすでに退いているが、裏に回ることで、その支配権は更に強まっている。
彼女、直属の諜報員が遺伝子操作され馬の脚を持つ男『ヴァリニャーノ』である。
その肉体は強化され、単体相手ならSMPを苦にしない程度の能力を有する。
肉体の維持には制限もあるが…
「人肉を食す部族は未だに存在します…異常プリオンの感染と増殖、それがSMPにも影響を及ぼしているのは間違いありません」
普段は軽く値を叩き人をくった態度の掴みどころのないおとこではあるが、命の前では敬語で話すことが多い。
それは敬意でも忠誠でもない、単純な恐怖からだ。
「コロナの変異性をDNAを急激に書き換えるウィルスに変え…それに耐えうる、そう資格を得た者がSMPとなる」
「そうです、SMPは感染者を駆逐する云わば具現化したアンチウィルスです」
「そして…そのアンチウイルスに対抗するSMP『VAMP』を『ARK』が創り出した…」
「いたちごっこだわ」
フッと笑う命。
「現在の感染状況は、ほぼ100%、つまり全人類がエサであり捕食者に変異する可能性を秘めてしまったわけです」
「で…この資料にある異常プリオンとは?」
「我々が造ったウィルスは、その異常プリオンを組み込んでいます」
「知っています、それが理性を奪い、人を捕食対象に向かわせるということも」
「えぇ…VAMPは、その異常プリオンと理性を共存させた非常に精神的には不安定な存在です」
「SMPを超える戦闘力を持ち、良心を捨て…知性を有する…」
「その姿は人のまま…ですね?」
「ただしVAMPへの発症率は極端に低いうえに、その活動時間は極端に短い」
「まぁ、都合のいいことだけなんて在り得ませんからね」
「その対処手段に魔境を用いています」
「保存ですね…非人道的な」
「ARKらしいですがね」
命の目が冷たく光る。
「失言でした…」
「構いません…それで何を考えているのです?」
「いたちごっこ…ですよ命様」
部屋を出たヴァリニャーノ
(姉貴への嫉妬か…あるいは、男へのアピールか…クククッ)
「VAMPを食うか…アンチヴァンパイア…
命が疲れたような顔で夕日を眺める。
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