第32話 2050年9月某日

「東京五輪…1940年か」

 横関がパソコンを眺めていた。

「で…2020年ってトコに繋がる…」


 …

 1940年、幻の東京五輪は日中戦争によって開催されなかった。

 日本は武漢の制圧に手間取った…

(まぁ戦争しながら平和の祭典もクソもないわな~)

「人民解放に乗り出したはずが戦犯じゃね、やり切れんわな」

 事実なんざ、捻じ曲げられるもんだ、なにが正しいかなんて誰にも解らんさ。

 皆、正義を振りかざすから戦争になるんだよ…誰も自分が悪いなんて思ってない…その正義が狂気のトリガーになる。

「それが集団心理となると歯止めは利かなくなる…過剰に煽るマスコミを利用するのは戦時下では常套手段だもんな」

(俺も、そのマスコミ族なんだけどな)


 皮肉なもんだな…オリンピックが2度までも武漢でケチがついたとはね。

 呪われてんのかね~。

 そもそも平和の祭典を戦争で潰したんだから…日本って国は、国民が思ってるほど民度高くないんじゃないかな~。

 好戦的なんだろうな…多分、日本人ってさ。


「もしくは…ただ集団心理に流されやすいというか…騙されやすいのかな?」

 戦争なんて、皆を騙さないとやれないものな~。


「…せき…横関‼ シカトしてんじゃねぇ‼」

「えっ?」

 デスクで思案にふけっていた横関を編集長が呼んでいた。

「テメェ、とっとと記事かけねぇのか? 穴開ける気かバカ野郎‼」

「書けったって…このところ静かなもんでね~」

「だったら掘り下げねぇかバカ‼」

「やってますよ‼ 日中戦争まで掘り下げてますよ‼」

「どこから書くつもりだバカ‼ 今のご時世、日中戦争なんて誰が読むんだ‼」

「はいはい‼」

 立ち上がった横関は椅子を乱暴に戻しながら編集室を出ていった。


 ……

「何しろってんだよ…」

 いつもの喫茶店に入って、いつもの席に座る。

 そして、しばらくすると、いつものナポリタンが運ばれてくる。

「あのね、マスター…俺もたまには違うもの食うかもしれないだろ?」

「じゃあ、何を頼むんだい?」

「……あ~…エビフライ…」

「…はいよ」


 横関が煙草を吸い終わるころ、エビフライが運ばれてくる。

「マスター、タルタルソースは?」

「ソースで我慢しな」

「ったく…どういう店だよ」

 フォークでザクッと突き刺し口に運ぶ。

「絶対、冷凍だなコレ」

 冷めたナポリタンと、やたらと熱いエビフライを食べながら、ふと思い出す。

「エビ…か…そういえば、エビ売りだったな、確か…」


 Covid-19最初の感染者は、中国『武漢』の市場でエビを売っていた女性だったとされている。

「掘り下げてみるか…最初の一人を」


 薄いコーヒーを一気に流し込んだ横関が机に2千円を置いてマスターを声を掛けた。

「マスター、やっぱたまには違うものを食うべきだったんだわ」

「…そうかい…毎度」

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