第31話 1764年…2034年6月 (竜神池1)
1764年、草原の岩にカタリッと爪を響かせて1匹の獣が霧の中から現れた。
後に『タワ』と呼ばれる恐竜である。
フランス・ジェヴォーダン地方で3年もの間、人を襲い続けた恐竜は人を好んで襲いつつづけた。
『ジェヴォーダンの獣』と呼ばれ、これこそ『ジェヴォーダンの獣』であると大型の狼が剥製にされ多額の報奨金と引き換えにヴェルサイユに送られたこともあったが…犠牲者は当然、止むことなく増え続けた。
『タワ』は3年間、18世紀で人を喰らいながら生き続け、来た道を辿るように霧の中へ消えていった。
人々は時折、目撃した『タワ』の姿を伝えようとしたが、『オオカミ』という先入観が、目撃情報を捻じ曲げていた。
なにより、異形の生き物に対する恐怖が視野を曇らせてもいた。
………
「は~ん…恐竜ねぇ~」
相良が興味なさそうに図鑑をペラペラとめくる。
「信じられませんか相良さん」
「浅田館長、ネッシーっていたんですかね?」
「ハハハッ…いたんですか? 過去形ですか」
浅田は乾いた笑いの後、スッと目を細めて相良に聞き返した。
「あぁ、つい…いや、深い意味は無いんですよ…つい」
「つい?」
浅田は汗をかいたグラスの麦茶を一口飲んで言葉を続けた。
「相良さん、過去に恐竜はいました、ずっと昔…いつまでいたのか、それは解りません、しかし、今は…いないでしょう、その姿は鳥に変わり、トカゲに変わり、名残を匂わせるだけ…」
浅田は自分の掌を懐かしそうに見つめた。
「その手で…触れたんですか?」
相良は真面目な顔で尋ねた。
浅田は無言でニコリと笑ってプレシオサウルスの模型を指でなぞった。
「ひんやりとしていた…ペタリと吸い付くようでした」
会釈して資料館を後にして相良は大きくため息を吐いた。
「なんでもアリかよ…」
相良はガリガリと血が出るほどに頭を掻いた。
腫物が潰れて爪の先に血が付く。
「知らない…いや、理解できないって怖いことなんだな…」
相良にとって、初めての事だったのかもしれない。
自分の想定、その外の外、ソコに真実があるという恐怖。
「刑事になんてなるんじゃなかったな~」
そう言いつつ、無意識に笑っている自分に気づく。
怖いってこういうことなんだな。
櫻井 敦を追うときは愉しんでいただけ…今は?
櫻井 敦は、2039年1月戻って来る、ARKからの情報を得てから、この1年足らず、なんとなく腑抜けていた。
それで、全てが終わると思っていた。
もう考えなくていい、ただ待てばいい。
「そうじゃねぇよな」
そう目を背けていた『鏡』のこと、踏み込む勇気がなかった。
「踏み込むか…な」
手帳を握りボソリと呟く。
(託すべき時に…託せるヤツは現れるもんさ)
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