第30話 2033年8月某日 その2
「犬…がですか?」
「別に犬に拘ったわけじゃなかった…結果、犬になっただけだ」
「あのARKからの供給だとか…」
「特駆…」
「はっ?」
「内閣府直轄の部署が発足するよな」
「内閣府特殊駆除局実務部隊でしたか?」
「通称『特駆』アレはARKからの要請らしいんだ」
「えっ…それって」
「ARKは日本を特別視している…ライバルのNOAが日本で今一つ大人しいのもARKとの衝突を避けるためだ」
「ゴシップですか? 俺達、一応環境省の役人ですよ、ゴシップを鵜呑みにするような発言、どうかと思いますよ先輩」
「バカ、ゴシップレベルの話じゃないよ、この『ORIGIN』、なんで俺達の所に回ってきたと思う?」
「そりゃ、COVID-19の感知が、この犬で、できるなら…他の犬でも感染者を選別できるかもしれない…的な実証データと検証を任せてきたんじゃ?」
「そんなことなら、ARKでも出来るさ、俺達以上にな」
「じゃあなんで?」
「NOA…COVID-19はNOAが造ったウィルスだからだ、ARKは日本に首輪を付けたのさ」
「どういうことです?」
「中国はNOAと蜜月…日本政府も『タナトス』に手を伸ばした、コレは事実だ」
「経済対策として高齢者、障がい者を間引いたって話ですね」
「あぁ…10年で経済は立ち直った、高齢者へ回していた予算は半分以下になった」
「ここまではARKも黙認していた、が…タナトスが変異をもたらすと知った政府はNOAに頼った、しかしNOAはその手を掃った」
「なぜ?」
「この島国はNOAの実験場だったから…事実上のARKへの宣戦布告」
「確かに日本のSMPは突出して高い…」
「そうCOVID-19での死亡率は極端に低いにも関わらずだ」
「耐性があるんじゃ?」
「耐性そんなレベルの低さじゃないだろ」
「タナトスはCOVID-19をベースに作られている事実は、公にはなってないがな…タナトスは2種類あるんじゃないか?」
「まさか…」
「COVID-19感染者の死を加速させるタナトス…人を化け物に変える、もうひとつのウィルス」
「それを感知するための『ORIGIN』なんですか? この犬が?」
「さぁな…ただ、ARKはNOAに好き勝手やらせないだろう…この犬は、その先兵なのかもな」
目玉の赤い犬が退屈そうにアクビして丸まって眠る。
「呑気なもんだな…餓鬼を食い散らかしやがって…」
「まさに魔犬ですか」
「オルトロスか…ケルベロスか…不気味な犬だよな」
モニターから目を離す2人の職員、それを監視している女性が呟く…
「もう一つのウィルスねぇ…あの職員、勘がいいのかしら、そのウィルスは『ヒュプノス』というのよ」
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