第28話 紀元前…
その小さな惑星に最初に辿り着いた知的生命体は、その星で『神』と崇められていた。
姿は、その星の先住種族に近く、彼は持ち込んだ植物の種を、その星に撒き、飢えの無い平和な世界を築こうとしていた。
彼の惑星は、星そのものを壊すほどに乱れた文明を築いてしまったから…。
「おとぎ話だと思っていたんだ…」
この星に辿り着いた男は、500年前から歳はとっていないようだ。
その容姿に大きな変化はなく、ただ時折、姿を消して、数年後に現れ偉業を成す。
「まさか自分が…」
男は静かに世話人に話しだした。
「キミたちは私を神と呼ぶが、私が暮らしていた星にも神がいたらしいんだ…」
男の産まれた星は、高度な文明と引き換えに、色々な物を失っていた。
人口は管理され、自然受精で減った分だけ補充される。
延命以外の医療分野は衰退した。
産まれる前に耐性が与えられ、遺伝子レベルである程度のデザインが施されている。
病気という概念が希薄で、そのため治療の必要が無い。
もちろん病が無くなったわけではなく、心身に不調をきたした個体は処分される、だから医療が必要ないのだ。
仕事という概念も持ち合わせていない。
日々、作業指示が割り振られる、その大半は移動を必要をしない。
食事も皆が同じ物を食べる、料理なんて存在しない、固形食と水だけ、生活の全ては維持に費やされており、そこに進化も進歩も存在していない。
ナニカのために、何かをする、それだけの世界だったのだと…。
「強いて言えば、そのナニカが神だったのかもしれない」
男に与えられた作業は文書のデータ化であった。
紙媒体の古い書物をスキャンし、欠けた部分をAIが予測変換していく、ある程度の候補を絞り込み入力するだけの作業。
その中に、星の古い歴史も含まれていた。
男は、そこで『神』という存在を知ったのだ。
その昔、多くの地で急速に文化、文明が発達した時期があった…。
そこには必ず、神の存在が確認されていた。
突然現れ、知恵を与える、その不可思議な存在を神と崇める文化があった。
当時の人とは大きくかけ離れた知識、あるいは容姿をもつ神、それらは突然現れるのだという。
『鏡』の中から…
鏡の反射率は技術である。
磨く技術の向上、それは『神』の招来を促した。
「アナタ達も、その何かを磨き上げる技術の末に私を呼んだのだ…」
コピーは繰り返される…が完全な複製はできない。
少しづつ歪んで劣化していく…。
ある『神』の言葉を伝えよう。
「あるべき未来から逃げた先は、歪み続けながら、その結末を先送りにしているだけだった」
結末を知る『神』時間を掛け降りてきた者の言葉なのだろう…。
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