第27話 XXXX年XX某日

「なぜ誰も動かない…」

 地球などという星が産まれる遥かな昔、一人の男が絶望の果てに辿り着いた扉は、正気で開けることは叶わないほどに重く…そして軽かった。

「この惑星は…いや銀河は近い将来、消滅する」

 だが…それに対して惑星の人々は足掻くことすらしない。

「あるがままに受け入れる…その時が来ただけだ…」

 緩やかに滅亡の火に飲まれる、その時を待つ、男の目には、そんな同胞達が背を丸めて地べたを這いずるように生きる虫けらの様に映っていた。

「バカ共が…」


 幸い、この惑星には資源があり、自分には飛びぬけた知識があり、種は過渡期を過ぎ、進むべき方向を間違え行き詰まった文明があった。

「方法はあるはず…あるはずなんだ…」

 思考の果て、試行錯誤の末、得た結果は衰退を止める術はないという結論。

 そこで行き詰り数年が過ぎていた。

「進化の果てが滅亡ならば…」

 辿り着いた、ひとつの結論、正しいとは思えない…が、他に術もない。

 いかに文明が進んでも、時の流れには逆らえない。

 もちろん戻ることなどできない。


「これしかないのか…」


 男は鏡を覗き込み、大きなため息を吐いた。


 さらに十数年が流れた…。


「これでいいのか?」

 自問自答を繰り返し、悩みぬいた、それでも手は止められなかった。

 宇宙に浮かぶ大きな鏡。

「角度を変えれば…時は止まる…」


 男は自らが産まれた星を鏡にコピーした。


 この技術は男が思いついたわけではない。

 かつて、自らの遠い祖先も、こうやって種を別の宇宙へ運び続けてきた。

 コピーを繰り返し、宇宙は広がってきたのだ。

 それは過ちだと男は知っている。

 なぜ…こんなことを繰り返してきたのか?

 幾度も滅びの道を辿り、都度、やり直そうとしてきたのだ。

 そして、その度に道を間違える。

 知恵ある生命は滅びの道を回避できない…それを知りつつ男は、この技術を用いて種の延命を図った。


 鏡の中にコピーされた宇宙…継ぎ足された歴史の向かう先に今度こそ平和は産まれるのだろうか?


 せめて…その結末は見届けなければならない。

 男は鏡の管理者になることで、時間の流れから外れた。


 悠久の時の果てに、鏡はいくつかの銀河を生み出した。

 そのひとつ…小さな星で鏡は『魔境』と呼ばれることとなる。


「また…銀河が産まれた…」


 小さな銀河に産まれた儚い歴史の話をしようか…。


 100年も生きられない生命体の話を…。


 瞬く間に成長し消えていく…出来損ないの命を与えられ必死で生きる、この星の話を…。


「よく似ているよ…私たちに…」





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